クリニックのスタッフがすぐ辞める原因とは?

クリニックのスタッフがすぐ辞める原因とは?

クリニック経営の悩み相談Q&A

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クリニック開業準備は、コンサルタントや専門の業者さんに業務を依頼することで、希望するスケジュールに沿って進めていくことができます。ところが、クリニックの新規開業を準備する中で、計画通りにいかないのがスタッフの採用です。

スタッフの採用となると、募集広告を出すところまでは専門の広告代理店などに依頼すれば予定通り進んでいくのですが、それで良いスタッフが応募してくるかどうかということは、募集広告を出して応募があるまで分からないというのが現実です。

スタッフの一般的な勤務時間

スタッフの一般的な勤務時間

スタッフを募集する際にまず検討しなくてはならないことが、クリニックの診療時間とスタッフの勤務時間の設定です。

一般的なクリニックの開業では、診療時間の設定を午前中は9時から12時、お昼休みの時間を挟んで、午後の診療は15時から18時くらいに設定する場合が多く有ります。このように午前中に3時間の診療を行い、午後も3時間の診療時間を設定する場合、スタッフの出勤時間は診療開始時間の30分前となる8時30分に設定して患者さんを受け入れる準備をします。午前中の診療を12時で終えた後には患者さんのお会計や事務処理などのために、12時30分までを午前中の勤務時間として設定します。

午後は診療開始時間の15分前である14時45分から勤務を開始して、診療時間が終わる18時を過ぎて30分後の18時30分を勤務の終了時間として設定します。

1日の法定労働時間は8時間と定められていますので、このような勤務時間の設定をした場合には、7時間45分となりスタッフを雇用する条件としては適法でもあるというわけです。

この診療時間と勤務時間の関係は下記のようになります。

診療時間 9:00~12:00の3時間 + 15:00~18:00の3時間 合計6時間00分
勤務時間 8:30~12:30の4時間 + 14:45~18:30の3時間45分 合計7時間45分

この勤務時間設定ではパート勤務ができない

ところが、パート勤務を希望するスタッフの多くは、家庭の主婦であり家事との両立を希望していますので、午前中の勤務はできても午後から終了時間が18時を超えるような勤務は難しくなります。

まして、患者さんが多く来院する繁盛しているクリニックでは定時を過ぎる残業が常態化してきます。そうなると、パートスタッフは家事との両立はできなくなってクリニックの勤務を続けることが出来なくなって、辞めていきます。

扶養控除の範囲を超えそうになりすぐ辞める

扶養控除の範囲を超えそうになりすぐ辞める

パートスタッフの多くは専業主婦であり、ご主人の扶養控除の範囲内で働きたいと言う希望を持っています。

ご主人が配偶者控除の最大限38万円までを受けようとすると、配偶者のパート勤務で得る給与の扶養控除限度額は103万円となります。

一年間の収入が103万円以内であれば良いのですが、患者さんが多く来院する忙しいクリニックであれば残業が多くなったり、勤務のシフトを多く入れざるを得ない場合があります。

そうしたことで扶養控除の権利を得られる年収の上限である、103万円の収入を超えてしまう様になると、その後の勤務を続けることが出来なくなってしまい、辞めてしまいます。

もちろん、経営者である院長先生がそのような状況をしっかりと把握して、パート勤務のスタッフ個々人の勤務シフトを調整してくれていれば問題ありません。しかし現実問題として、多くのパート勤務のスタッフが働くクリニックでは、院長先生が日々の忙しい勤務の中で各スタッフの時給と勤務時間の関係を、正確に把握して勤務シフトを調整することは困難です。

クリニックのために一生懸命に働こうとすると、パートスタッフの勤務時間が長くなってしまい、結果的に扶養控除の範囲を超えてしまいそうになってしまいます。そのようなパートスタッフは、年度の途中から勤務ができなくなってしまいます。

そうなると、クリニックとしては別のスタッフを採用してスタッフが抜けた勤務の穴埋めをせざるを得なくなってしまいます。

自分の代わりに勤務する人が採用されたことと、自分が勤務できない期間が生じてしまうことで、なんとなく職場に迷惑をかけている様な感じがして、こうした理由から「やりがいがある」と感じているクリニックであっても、居づらくなって辞めてしてしまうのです。

雇用保険がなくてすぐ辞める

雇用保険がなくてすぐ辞める

クリニックで働いてもらうスタッフを一人でも雇用した場合には、労災保険に加入しなくてはなりません。労災保険と雇用保険はペアで加入すると言うのが一般的な認識ですが、実は雇用保険(=失業保険)に加入する義務が生じるのは、週に20時間以上の勤務をするスタッフに限られます。

そのため、クリニックの経営者の中には事業主が負担しなくてはならない保険料を支払うことが惜しくて、パートスタッフの勤務シフトを週に20時間以内に抑えて、雇用保険の加入義務を免れようとすることがあります。

一見すると雇用保険の負担金がなくなって、経営者としては得をしている様に感じるかもしれませんが、実は優秀なスタッフに勤務してもらう機会を失うことになります。

クリニックに勤務するスタッフの立場からすると、雇用保険に入れてもらえないクリニックに勤めることは、「いやだな」と感じるものです。クリニックの経営不振などで雇い止めや人員整理などがあった場合に、意に沿わない退職をせざるを得なくなった場合の、セーフティーネットとしての失業保険がないと言うことは、大変不安定な状況で勤務を続けることと同じです。

クリニックはどこも人手不足なので、優秀なスタッフは良い条件で転職できてしまうものです。雇用保険に入っていないクリニックには、優秀なスタッフに残ってもらうことは難しいと言えるでしょう。

有給休暇が取れなくて辞める

有給休暇が取れなくて辞める

クリニックに常勤勤務するスタッフには有給休暇が与えられることが一般的です。ただし一般の企業や病院などと違って、休暇の日を自分で決めて有給休暇の申請をすることが、難しい職場環境でもあると言えます。

病院や一般企業の場合には、そこに勤務するスタッフは仕事内容が決められているので、たとえ院長先生や経営者が職場にいなかったとしても、いつもと同じように出勤して仕事をすることが出来ます。そこで働くスタッフは自己申告で休暇の申請をすることになります。

小規模クリニックのスタッフの有給休暇取得

クリニックの事業規模が院長であるドクター1人と受付事務や看護師さん数名が勤務する小規模な職場の場合、クリニックの休みは「お盆とお正月のみ」ということが一般的な認識です。従って院長先生が休暇を取る時期もお盆とお正月になります。

クリニックに勤務する医師が1人であれば、院長が休暇をとった日にはクリニックに勤務するスタッフの仕事はありません。

仕事のない職場に出勤することは無意味ですので、クリニックに勤務するスタッフには院長先生の休暇に合わせてお休みしてもらうことになります。

常勤勤務のスタッフは月給で働いていますので、定休日以外にお盆やお正月なとどの休暇があってもなくても受け取るお給料に変化はありません。

従って、院長先生が休暇を取る日に合わせてスタッフにもお休みしてもらうことで、結果的に有給休暇を与えることになります。

こうしたことを『有給休暇の計画付与』と言って、法律でもキチンと認められている制度でもあります。

ただし、すべての休暇を院長の都合に合わせるとなると色々と問題も出てくるので、年間に5日間だけは勤務するスタッフが自由に休暇の日を申請できるという条件をつけて実施するようになっています。

労働基準法には、常勤スタッフの有給休暇だけでなく、パート勤務のスタッフに対しても、その勤務日数に応じた有給休暇を与えなくてはならないと定められていますが、現実問題としてクリニックに勤務するパートスタッフに、有給休暇が与えられている職場はごく少数であると言えるでしょう。

中には、常勤スタッフの権利である年間5日間の休暇取得さえも、取らせようとしない場合もあります。

スタッフが辞めないために有給休暇が取れることも大事

これまで多くの勤務医は、職場に医師が少ないことから長時間勤務や、有給休暇も満足に取れない職場環境の中で勤務してきました。そうした勤務に対する姿勢や自己犠牲の精神は尊敬すべき面もあります。

ご自分がクリニックを開設して院長となった時に、有給休暇の制度を設けたとしても、自分が医療従事者として休暇を取らずに勤務してきた経験からすると、当然のように有給休暇を申請してくるスタッフの態度に釈然としない気持ちになるのかもしれません。

しかしながら、同じく病院に勤務していたとしても医師と事務職員や看護師さんなどは、給与にも社会的な地位にしても格段の相違があります。

そうした生活環境の違いを勘案しないで、スタッフの休暇の申請を快く思わないということはスタッフの勤労意欲を削いでしまい、すぐに辞めてしまう結果を招きかねません。

クリニックにパート勤務するスタッフにとって、有給休暇の権利を受け取れることは現実には大変に少ないと言えるでしょう。

優秀なパートスタッフに安心して働いてもらうためには、有給休暇の制度をうまく活用することも大切です。

パートスタッフを安い労働力として考えているとすぐ辞める

一般的には、パートのスタッフを使えば人件費が安くなるという理由で、正社員としてのスタッフの雇用をきらうクリニックが多くあります。

パート勤務がお互いのメリットになる場合もある

パート勤務がお互いのメリットになる場合もある

パート勤務を希望するスタッフには、ご主人が扶養控除を受けられる限度額である「年間103万円までの収入に抑えて働きたい」ということや、小さな子供さんがいるので「子育ての時間も大切にしながら、家計の足しになるように無理のない時間帯で働きたい」という希望があったり、看護師さんや臨床検査技師さんなどのように国家資格を持つ技術者としてのスキルを錆びつかせないために、「資格を活かしながら働きたい」という希望を持って、クリニックの職員募集に応募してくる方が多くいます。

クリニックのスタッフとして求められる優秀なスキルを持っていたとしても、家庭の事情でフルタイムの勤務が難しいということで、パート勤務を希望する方も多くいます。

そのような希望を持つスタッフが勤務しやすい時間で働いてもらうことは、クリニックの経営者である院長先生にとっても、そこで勤務するスタッフにとってもお互いにメリットが多くあることです。

優秀なスタッフやフルタイム勤務スタッフは正社員を希望する

ただし、そのようなことを無視して人件費抑制のためだけに正社員の雇用をせずに、時給で勤務するパートスタッフでクリニックの診療時間をカバーしようとする院長が少なからずいます。

午前中の診療はともかくとして、午後からの診療が18時を超えるような場合には、家庭の事情からパート勤務を希望するスタッフにとっては、大変厳しい就労環境であると言えるでしょう。そうなってくると優秀なスキルを持ったスタッフの雇用は難しくなってきます。

また、フルタイムで勤務する場合には、当然正社員として月給と福利厚生が充実したクリニックに勤務することを希望してきます。正社員になれないと分かれば、待遇の良いクリニックを求めてすぐに辞めることになります。

優秀なスタッフであれば、そのような職場を希望することは当然のことですし、仮にフルタイムで勤務しているパートスタッフにしても、そのような状況には不満が溜まりますので能力のあるスタッフほど、機会があれば転職しようと思うのは当然とも言えるでしょう。

従ってフルタイムでパートスタッフを採用しようとすると、結果的に良い人材は残らなくなるのは自然の成り行きとなります。

パートスタッフのみだと業務効率が低下することも

クリニックのスタッフがパートばかりだと、一見すると人件費が安くなって効率が上がった様に見えますが、実は優秀なスタッフが残らなくなって業務効率が低下していき、クリニックの運営に支障をきたすことになります。

人件費を安く抑えようとしてパートスタッフにフルタイム勤務を押し付けることで、優秀なスタッフが辞めて行き結果的に業務効率が低下して、無駄な人件費を使ってしまう事になります。実は、高い人件費を払ってしまう結果に気づいていないと言えるでしょう。

以上、クリニックで雇ったスタッフがすぐに辞める主な原因についてご紹介いたしました。すぐに辞める原因は、扶養控除の範囲を超えそうになること、雇用保険がないこと、パートスタッフを安い労働力として安易に考えていることなどです。労働時間や保険、パートスタッフの考え方を変えて、スタッフが定着しやすいクリニックを目指してください。

当社のクリニック開業コンサルティングをご利用いただいたドクターには、スタッフが定着しやすいクリニックづくりのご支援もいたします。クリニック開業コンサルティングをぜひご利用ください。