クリニック開業 成功への道のり

クリニック開業を志す先生方へ

開業医の増加や開業規制の検討など、近年はクリニックの新規開業を志す先生方にとって厳しい時代になってきました。やみくもに開業をしても経営が行き詰まる恐れがありますので、開業前にしっかりとした準備をすることが明暗を分けると言えるでしょう。

この記事はクリニック開業を志して情報収集をしている先生方へ向けて、開業までの道のりの中で重要になる事柄について、実践的で具体的な解説を行っています。先生方に開業して成功して頂く事を目的にして書いていますので、少し長くなりますが、最後までお付き合い頂けましたら幸いです。

1. はじめに

オクスアイ医療事業開発株式会社 代表

初めまして。オクスアイ医療事業開発株式会社の代表を務めております、金村です。わたくしの経歴を簡単に申し上げますと、若いころに建築を学び、病院建築に興味を持ったご縁から、病院経営をサポートするコンサルティング会社に勤務し、全国の病院の経営改善に従事して参りました。その後、弊社を設立してからは、かれこれ30年以上になりますが、これまでに150件くらいのクリニックの開業をサポートして参りました。

開業をお考えの先生方は、開業について不安なことや疑問に思っている点が沢山おありのことと思います。医師の先生方が思われる、開業に関する具体的な不安や疑問について、この記事で一つ一つ丁寧にお答えしていきたいと思い、文章をまとめました。長くなりますが、これから開業をお考えの先生方のお役に立てるだろうと思いますので、どうぞ最後までお付き合い頂ければと思います。

2. まずはお知りになりたい事にお答えします

まずはお知りになりたい事にお答えします

先生方の不安

私はこれまで、多くの先生方にお会いしてきました。その中で、この様にほぼ共通した質問を受けます。
「自分は開業に向いているのだろうか?」
「開業して、うまくやって行けるだろうか?」
「経営の事など勉強したことがないのに、大丈夫だろうか?」
「開業しても、過当競争で患者さんが来てくれないんじゃないだろうか?」
「開業規制のために、都内での開業は出来なくなってしまうのではないだろうか?」

先生方のお気持ちはよくわかります。医院開業には大きな資金の投入が必要となりますので、万に一つも失敗は許されません。それが自己資金であろうと借入金であろうと、設備資金と運転資金を合わせると、開業には数千万円の資金投入が必要とされます。

開業が成功すれば、それらの投入資金は何十倍にもなって戻って来ますが、仮に開業が失敗すれば、それらの資金を失うだけでなく、莫大な負債が残ることとなり、その返済のために多くの時間と労力を費やすことになります。また家族にも大きな心労をかけることになってしまいます。開業するということは、言ってみれば未知の世界に飛び込む訳ですから、その様に心配されるのは当然の話だと思います。

医院開業の定石

しかしながら、物事には全て定石というものがあります。こうすればこうなるという、物事の定理と言っても良いかも知れません。先生方が長らく医学を学び、数多くの臨床を経験されてきた中で、先を見通す力を身に付けて患者さんの治療に成功されてきた様に、医院開業にも、開業を成功させる技術に関しても、定石があります。

但し、その定石を知っていれば失敗する事はないのかと言えば、世の中はそう単純なものではありません。医院開業に関わる様々な定石を踏まえた上で、豊富な経験により最適な状況判断を下すことで、多くのリスクを回避していく事が必要です。それらを乗り越えて初めて、開業を成功させることができるのです。

それは、医学生が教科書で勉強しただけでは患者さんの治療はできないのと同様です。一人前の医師になるまでには、医学部で学んだ定石を基礎として多くの臨床経験を経る必要があり、患者さん個々の個体差を経験することによって効果的な治療を実践することが出来るようになるのではないでしょうか?

これから、医院開業に関わる大変多岐に亘る分野の定石や技術について、また私が30年以上に亘って経験した「開業成功への道のり」について、実践的なお話をさせて頂きたいと思います。

3. 医院開業の3要素

開業相談にいらっしゃる先生方に、私はいつもこのようなお話をさせて頂いております。医院開業には「場所」と「資金」と「タイミング」が最も大切です、と。それは、この3つの要素に対する判断を間違えると、開業そのものが失敗に終わる可能性が高くなるからです。

ではまず初めに、3つ目にあげた医院開業の「タイミング」はいつが良いのか?について、以下でご説明します。

3-1. 開業の「タイミング」はいつが良い? ー 開業に対して躊躇がなくなった時を掴む

開業の「タイミング」はいつが良い?

人が行動を起こす時というのは、状況が必然的に後押しする場合も多くあります。医院開業をするタイミングも、先生方それぞれの状況に後押しされ、最後はご自身が開業に対して躊躇することがなくなった時を掴むのが最適です。

例えば、お子さんの医学部入学を望んで学費をつくるために開業する先生もいらっしゃいますし、大学病院を定年退職してから開業する先生もいらっしゃいます。また、病院勤務が長くなりマンネリ化した状況に変化が欲しくて開業する先生もいらっしゃいますし、子育てを優先できる環境を必要として開業する女性の先生もいらっしゃいます。

もう一つ考えなければならないのは、開業するための準備を行なっているか?という問題です。ここで言う開業の準備とは、端的に言えば、「開業前に患者さんを確保する」ことです。こちらに関しては後の記事で詳しく書きますので、是非ご一読ください。

それでは次に、開業する「場所」はどこが良いのか?についてご説明します。

3-2. 開業の「場所」はどこが良い? ー 戸建て開業は難しい

開業の「場所」はどこが良い?

クリニックの開業形態としては、建物自体を新たに建てる「戸建て開業」と、既存の建物の一室に入居する「テナント開業」に大別されますが、まずは戸建て開業についてご説明します。

戸建て開業はリスクが高い

戸建て開業は、今や東京都心ではほとんど見られなくなりましたが、首都圏の郊外や地方都市などでは、まだハウスメーカー等が主導して計画される事が一般的な様です。私どもはこの様な開業は大変リスクが高いものとして、基本的には戸建て開業をお勧めする事はありません。何故ならば、自宅を併設した戸建て開業の場合には、開業の目的と手段を混同してしまうことが多くなるからです。

自宅併設の戸建て医院で開業を計画する場合、資金の多くが自宅部分に費やされてしまい、事業の目的である医院部分に回る資金が圧迫される傾向にあります。医院部分の計画は院長の意向で進んで行きますが、自宅部分の計画は家族の意向が強く反映される事になります。自宅の建築は家族にとって一生に一度の大きなイベントになりますので、どうしても良い物の組み合わせになりがちです。ところが、開業する際の資金には限りがありますので、結果として売り上げを上げるための医院部分に対する投資が圧迫されてしまうのです。

戸建て開業をするためには

このように、戸建て開業は投資効率の点で大変問題が多いという事になります。もし戸建て開業を希望される場合は、少なくとも土地と自宅に関わる費用に関しては、返済の必要の無い自己資金か、親御さんからの援助で賄うことが望まれます。

まずは医院開業に資金を集中させて成功してからならば、思い通りのお屋敷を建てる事ができますので、長期的な視点でお考えください。自宅はお金を生み出さないという事を、よく認識しておくことが大切です。

3-3. 開業の「場所」はどこが良い? ー テナント開業がオススメ

開業の「場所」はどこが良い?

テナント開業の利点

次にテナント開業についてご説明しますが、利点としては選択肢が多くなるという事です。戸建て開業の場合は土地と建物が絡んできますので、場所の選択肢はかなり限られてしまいます。一方、テナント開業の場合は、どのような場所でどのような医療を行いたいのかという先生の希望に適う場所を、多くのテナントビルの中から選択することができます。また、始めは小さな規模で開業し、経営が安定して資金が貯まったら、規模を拡大するために移転開業するという事も、テナント開業であれば可能です。

医院開業の目的は人により様々ですが、こと事業活動である以上は、開業したら早急に経営を黒字化する必要があります。経営の基本とは、売り上げと経費のバランスを適正化する事にあります。ご自身が開業するクリニックの売り上げがどの程度になるか予想しておけば、いざ物件を探す時にテナントの賃料や賃借できる面積を設定できます。多くのテナントの中からその条件に合う物件を探していくことで、理想的な開業場所を獲得する第一歩が踏み出せます。

しかし現実問題として、理想的なテナントというのはそう簡単に見つかるものではありません。結局は、候補となる物件の中から相対的に理想に近い物件を選ぶことになります。この時に判断を間違えると、いつまで経っても開業場所を決める事ができなくなります。理想的な物件というのは、自分のワガママが通る物件ということではなく、開業して速やかに事業収支を黒字化できる物件だということを覚えておいてください。

良い物件の見分け方

それでは、良い物件かどうかを見分ける為にはどうしたら良いのでしょう?まずは患者さんに来てもらえる立地であるかどうか、次に効果的な看板の掲載が可能かどうか、そしてクリニックとしての構造設備に問題が無いかどうかを見極める事が大切です。

良い場所というのは、お客さんが来る場所の事です。それは言い換えれば、人がたくさん集まりやすい場所という事にもなります。駅前や商店街、スーパーの前などは毎日大勢の人が集まって来ます。商品やサービスを販売する仕事は、そのように人が集まりやすい場所で開業するのが基本です。クリニックも同様に、大勢の人が集まりやすい場所で開業しないと、患者さんを集めるのに苦労する事になります。例えばご自身がカフェを開業すると仮定して、選んだ場所が果たしてお客さんに来てもらえるかどうかと考えてみることも、場所選定の一つの基準となります。

また、ビルの窓面や屋外に看板を掲示することにより、クリニックの集患や売り上げに大きな効果が期待できます。しかし、貸主であるオーナーがビルの外観の変更を好まない場合は、看板の掲示を許可しない事もありますので、契約する前の段階で承諾を取っておく必要があります。

構造設備の事前確認も重要

候補となるテナントがクリニックに適しているか、構造設備の面で確認しておく事も重要です。例えば、テナント室内に給排水設備が整っていない事があります。大きなオフィスビルの場合はトイレも含めて給排水設備は貸室の外に設けられている、等という事がある為です。このような構造では、メンタルクリニックを除いては、大抵クリニックを開業する事は困難になります。

また診療科目別に見ると、整形外科や呼吸器内科などは病院の放射線科と同様、X線撮影のために高圧撮影が可能な機器を設置する事になります。それを動かす為にはおよそ30KVAという大きな電源が必要になるのですが、通常、テナント室内に来ている電源だけでは間に合いません。そのため、電気工事を行って新たに電源を引き直す必要があります。その様な事が可能なテナントかどうかという技術的な面も、開業場所を選定する際の重要なポイントになります。

4. 医院開業のための「資金調達」

医院開業の3要素の内、「タイミング」と「場所」についてご説明して参りましたが、次は「資金」です。開業資金については先生方の関心も大きいかと思いますので、ここではかなり具体的なお話をさせて頂きます。

クリニックの開業には、たとえ小さな規模で始めようとも、設備投資と運転資金も含めると数千万円の資金が必要になります。これまでお会いした先生方の中で、何人かは全額を自己資金で賄った方もいらっしゃいましたが、それだけの額を貯金するというのはなかなか難しい事です。基本的には、銀行からの借り入れによる資金調達が必要となってきます。

借り入れによる資金調達、つまり融資に関して、その仕組みや実際の手順などをご説明します。

4-1. 今の時代の融資とは?

今の時代の融資とは?

長期化するゼロ金利政策の影響とキャッシュレス社会の到来と共に、近年、銀行の存在価値がだんだん薄れてきたようです。しかし現状では、現実的な資金調達の方法として、銀行から融資を受けるケースが多いです。

銀行融資のジレンマ

銀行の審査基準から見ると、クリニックを開業しようとする医師は大変優良な貸し出し先として分類されています。実際、銀行に開業資金の融資の話を持ち掛けると、大変熱心に勧誘をしてきます。しかしながら、銀行の融資は「銀行法」と言う大変厳格な法律により様々な規制を受けており、銀行が融資によるリスクを被らないよう保護されています。融資を行う場合には、事業の実績や不動産担保、連帯保証人等が必要となります。

事業の実績がない新規のクリニック開業に対しては、このように基本的に銀行独自では融資を行えないことになっています。しかし、銀行としては医師にお金を貸したいのです。そこでどうするかと言うと、信用保証協会の審査を受けるよう要請されます。信用保証協会と言うのは、昭和28年に法律により定められた公益法人で、中小企業が資金繰りを円滑化する為に、銀行融資を受ける際にその債務を保証する機関です。信用保証協会の保証を受けることが出来れば、銀行はリスクゼロで融資を実行する事が出来るという構図になっています。

尚、銀行の融資金利自体はゼロ金利の影響から0.4%程度の低金利ですが、信用保証協会に対しては保証料を支払う必要が出てきます。そのため、融資の金利を見る時には銀行だけでなく、信用保証協会の保証料も加味して検討する必要があります。

銀行独自の金融商品

銀行法に縛られている銀行融資ですが、中には銀行独自で新規開業に融資を行えるよう開発された金融商品もあります。現在では、みずほ銀行の「みずほクリニックアシスト」と言う商品が5千万円まで無担保・無保証人でクリニック開業の資金を貸し付けしてくれますので、最も使い勝手が良いと思われます。この商品は、みずほ銀行の関連会社であるシャープファイナンスが融資に対する連帯保証をすることにより成立しているものです。この場合、みずほ銀行の融資金利自体は0.4%前後ですが、シャープファイナンスへの保証料として、融資の元金の1%を支払う必要があります。

日本政策金融公庫

その他に融資を受け付けてくれる所はないのでしょうか?市中銀行以外で新規開業資金の調達が可能な所もあります。代表的な機関としては、日本政策金融公庫があげられます。

日本政策金融公庫は国の組織で、事業実績のない新規開業にも、女性の独立にも、誠実に対応してくれます。こちらは独自で審査を行い、自らの責任で融資の実行を判断する「プロパー融資」と言うものです。但し、資金の貸し出し金利は2%前後と、昨今の銀行金利と比較すると割高感は否めない処と言えます。

4-2. 融資を受けるための条件

融資を受けるための条件

さて、実際に融資を受けるためには、金融機関の審査を経なければなりません。審査では何を見られるのでしょうか?融資を受けるための主な条件をお伝えします。

過去に金融関係の事故がない事

まず、過去に金融関係の事故がない事が前提となります。金融関係の事故と言うのは、住宅ローン等の支払いが滞ったり、クレジットカードの未払いがあったり、サラ金から多額の借り入れがあったりと言ったことです。この様な金融事故は、CICと言うデータバンクに全て記録されています。融資の審査の第一歩は、この記録を閲覧して過去に問題を起こしていないかどうかを確認する事です。勿論これらは重大な個人情報ですので、先生本人の承諾を得てから問い合わせをする事になります。

普通は問題ないのですが、たまに、クレジットカードの引き落とし日にうっかり預金の残高が不足していた、という事があると、これも金融事故の一つとしてCICに記録されていて、融資の審査においてはネックとなる場合がありますのでご注意下さい。

団体信用生命保険への加入

銀行融資を受ける場合、団体信用生命保険への加入はほぼ必須の条件となります。特に無担保の融資を受けようとする場合は、院長が万一無くなった場合の保全として義務付けられてきます。日本政策金融公庫からの融資を受ける場合には加入は任意ですが、万一の事を考えるとやはり加入しておくことをお勧めします。

加入の為には、当然の事ながら健康であり病気になる不安がないという事が要件になります。ご本人の告知で完了しますが、最近通院したか?、何かの薬を飲んでいるか?、何かの病気に罹っているか?など、3つ程の質問事項に告知が求められます。

ここで注意しなければならないのは、団体信用生命保険に加入する為には「完全に」健康体でなくてはならないという事です。以前の話ですが、高血圧で薬を服用していると正直に申告した先生がいらっしゃいました。医師の立場からすると、血圧が多少高いくらいの事はありふれた事であり、それを薬でコントロールできていれば何も心配はないという認識で、正直に告知したそうです。しかし、見事に加入を断られ、融資の審査にも落ちてしまいました。

その先生は住宅ローンを組む際にも同様の告知をして、団体信用生命保険の審査に通ったそうです。住宅ローンの場合は、給与により収入が保証されている事を前提に審査が行なわれます。ところが、事業を起こすための融資というのは、成功するかどうかはやってみなければ分かりません。そのため、開業するご本人が健康であり、病気のリスクがないという事が最低限の条件となります。健康であれば多少の困難があろうとも乗り越えられますが、持病があれば厳しい状況を乗り越えるのは大変困難だと見なされるからです。新規開業の為に団体信用生命保険に加入する場合は、このような事を是非知っておいてください。

4-3. 融資を受ける際の手順

融資を受ける際の手順

それでは、融資を受けるためには、具体的に何をすれば良いのでしょうか?融資の申し込みから契約まで、やるべきことの大半は書類の作成です。ここでは一例として、みずほ銀行の「みずほクリニックアシスト」で融資を受ける場合の手順をご紹介します。

融資の申し込み

まずは融資の申し込みを行います。新規開業するクリニックに関する事としては、以下の書類が必要になります。
1.開業地であるテナントの賃貸借契約書の写し
2.資金の流れと事業収支の計画を詳細に記載した事業計画書
3.融資を受ける対象となるクリニックの設備投資に関する詳細な見積書(内装工事・看板工事・什器備品・電子カルテ・各種医療機器など)

また個人情報に関する事として、以下の書類も用意します。
1.履歴書
2.運転免許証の写し(本人確認のため、運転免許証がない場合にはパスポート等の写し)
3.医師免許証の写し
4.過去3年分の確定申告書もしくは源泉徴収票
5.自己資金を証明する、預金通帳や積立保険、有価証券など金融資産の写し
6.自宅が持ち家の場合は、固定資産税支払い証の写し
7.印鑑証明書と実印は融資契約を締結する際に必要となります。

他に、団体信用生命保険への加入などを行い、申し込みが完了します。

融資の審査・契約

審査は保証会社であるシャープファイナンスが行い、2週間ほど掛かりますが、審査に通れば契約となります。契約はみずほ銀行の担当支店へ赴き、契約書類への署名・捺印を行う事で締結されます。その際、みずほ銀行とシャープファイナンスの2社と契約する事になります。

融資の実行・返済

融資の実行は、みずほ銀行の所定の口座への入金となります。申し込みから実行までは、およそ2ヶ月ほどを見込んでおいた方が良いでしょう。設備資金と運転資金として、2つの契約で実行されます。返済は初回の実行から1年間の元金据え置き期間を経て開始され、毎月の返済日に引き落とされることになります。

5. 「事業計画」というものを簡単に説明します

「事業計画」というものを簡単に説明します

融資の申し込みの際に必要になります「事業計画」について、少しお話させて頂きます。

事業計画とは

事業計画と言うものは、新規開業に掛かる費用を単に積み重ねただけのものではなく、また融資申し込み時の金融機関に対する説明資料というだけのものでもありません。その本質は、新規に創業するクリニックが生き残るための具体的な方法を記した、サバイバルプランとも言えるものです。

事業計画では、支出する費用は多めに計上して、売り上げによる収入は少なめに見ておくことが原則です。やはり初年度は赤字経営を覚悟しなくてはなりません。2年目には勤務医程度の収入があることを目標にし、3年目で事業が軌道に乗ることを想定して、事業の成長を見ておくことが肝心です。

事業計画によるシミュレーション

クリニック開業を考えた場合、まずはどのように開業するかを検討するために、様々なパターンを想定して事業計画を作成します。提供する医療の内容によって、必要になるクリニックの面積は変わってきます。またテナント開業でしたら、立地条件によって賃料や保証金などの資金量が大きく変わってきますし、契約する面積が広くなれば内装工事の費用も増えます。事業計画によるシミュレーションを繰り返して、どのような場所で、どれくらいの広さで、どのような装備を計画することが、先生ご自身にとって最適な開業計画であるのか?と言う指針を見つけ出していくのです。そういった作業をしていると、いざ開業準備に臨んだ時に、クリニックの計画に対する判断基準がご自身の中で明確になっていることでしょう。それが、事業計画の本質です。

但し、全ての事象は日々変っていきます。いかに精密に計画をしたとしても、その通りになる事はなかなか無いというのもまた事実です。クリニック開業を成功させるためには、開業を決意した時点での事業計画と、日々変わり行く現実とのギャップを埋めて、軌道修正をしていかなければなりません。その時に指針となるように作り上げる事が、本当の事業計画なのです。

6. 「開業準備期間」の過ごし方

開業までのスケジュール

さて、開業までにどのようなプロセスが待っているのか?という事の片鱗を、ここまでで具体的にイメージして頂けたかと思います。ここで改めて、開業までのスケジュールを概説します。

テナント開業の場合、開業場所が決まってから開業の初日を迎えるまでは、およそ6ヶ月ほどの時間がかかります。前半の3ヶ月は開業の青写真を描く期間です。開業場所が決まったら、内装の設計や医療機器の選定、各種官庁への事前相談など、構想を練りそれが実現可能かを検証する為の期間と言えます。後半の3ヶ月は実際にクリニックを創っていく期間です。内装工事、医療機器の納入といったハード面から、各種届出、スタッフの採用、販促活動といったソフト面まで、大小さまざまな準備が待ち受けています。

このような道のりを経て開業された暁には感慨もひとしおかもしれませんが、そもそも開業はゴールではなく、スタート地点です。開業をして経営が軌道に乗る事が開業の目的であり、準備期間にはその目的を達成する為には何が必要かを考えなければなりません。

重要なのは「準備期間」をどう過ごすか

現在はクリニック開業を決意してからすぐに開業しようとしても、成功する見込みは低いと考えた方が良いでしょう。都市部だけでなく地方都市においても開業医の過当競争が進んでいると言われ、また開業規制の施行までも計画されている時代ですから、考えも無しに開業してしまうとクリニック経営が行き詰まる事は目に見えています。

開業までにどれだけ準備をしてきたかという事が、開業が成功するかどうかの分かれ目になります。先程ご説明したように、一般的には開業場所を探すところからが開業準備と言われますが、実は開業を成功させる為には、その前から行っておく準備が非常に大切なのです。

具体的には、「資金作り」、「患者さんの獲得」、「スキル作り」の3つです。クリニック開業を決意したら、まずはこの3つの準備ができているかを振り返ってみてください。将来の開業の基礎となるものです。それでは、1つずつご説明していきます。

6-1. 開業のための「資金作り」が必要な訳

開業のための「資金作り」が必要な訳

開業のための資金作りと言うのは、文字通り貯金やすぐに現金化できる有価証券などの資産をなるべく多く増やしておくと言う事です。医院開業には数千万円の資金が必要になりますが、預金などの自己資金だけで賄える訳ではありませんし、基本的には開業のための資金調達は全額を借入金で賄うことになります。しかし、それでも自己資金が必要になる場面というものがありますので、ここでご説明します。

自己資金によるテナント契約

実際に自己資金が必要になる場面というのは、開業物件を押さえる時です。テナント開業の場合、開業場所として良い物件が見つかった時に、その物件を速やかに確保する為には賃貸借契約を交わす必要があります。その契約金を支払う為に必要になるのが、自己資金ということです。

良い物件というのは、長い間探していてもなかなか見つからない場合もありますし、逆に探し始めてすぐに出てくる事もあります。正にご自身の理想に合う物件と巡り会うというのは、ご縁によるところが大きいのではないでしょうか。ところが、ようやく巡り会えたテナントが良い場所であればあるほど、同じ時期に複数の入居申し込みが入る事があります。大家さんから見ると、クリニックというのは真面目で安心できる業種なので、入居者を選定する際の優先順位としては高いです。しかし契約金を支払うことができなければ、先に支払える人の方がそのテナントを確保できるというのは当然のことと言えます。そのため、機を逸せずに契約する為には、必要となる契約金を自己資金からすぐに支払うことができなくてはならないのです。

融資は待てない

テナント契約の契約金は、敷金、礼金、仲介手数料、前家賃、家賃保障会社の保障料などを合わせると、数百万円に上ります。そのため、銀行融資を得てからテナント契約をしようとする考えもあるかもしれませんが、通常は融資の申し込みから実行までに2〜3ヶ月くらい掛かってしまいます。理想的なテナントであればあるほど人気もありますから、資金調達に時間が掛かることは確保を難しくする要因になります。また、そもそも融資を受ける為にも、開業場所が決まらなければ書類が揃わず、申し込みもできません。やはり、テナント契約の為の資金はご自身で用意しておくというのが、開業成功の必須条件であると言えます。

銀行も自己資金を見る

自己資金が必要になるもう一つの場面として、銀行融資の審査段階で預貯金額を見られます。銀行から開業資金の融資を受ける場合に、銀行側の審査の基準として、事業資金の2割程度の自己資金を保有しているかを見られる事があります。銀行としては大金を貸す訳ですから、利息を付けてキチンと返済してもらう事を前提に融資案件の審査を行います。銀行員というのは特にお金にシビアな職業ですから、事業資金の融資を受けるなら融資金額の2割程度の預金をしておくのは当然だという考え方を持っています。言い換えればお金を大切に扱っており、無駄遣いをしていない証として、自己資金である預貯金額を見るのです。

注意すること

このように、自己資金が必要な場面というものがありますから、本格的な開業準備に掛かるまでになるべく倹約して貯金をしてください。中には住宅ローンを前倒しで支払って借金を減らしておいた方が開業には有利ではないかと質問される先生がいらっしゃいましたが、その様な事はご自身の立場を不利にするだけなので絶対に止めてください。医院開業を目指す場合には、手元の現金を少しでも増やしておく事が原則です。

また定年退職後に開業する場合は、一般的な開業とは異なり、全額を自己資金で賄う事が基本になります。65才を超えてからの開業というのは経済活動としてではなく、ご自身の生き甲斐としての開業と考える先生が多い様です。そうであれば、開業のために借金などはせず、全額を自己資金で賄わなければ本末転倒になってしまいます。

6-2. 開業前から「患者さんを獲得」する

開業前から「患者さんを獲得」する

開業後の売り上げを予測する

開業準備期間に行うべき事の二つ目は「患者さんの獲得」です。一口に患者さんと言っても、来院する背景はいくつかのパターンに分けられます。開業するクリニックの診療圏内に住む新規の患者さん、病診連携などにより紹介してもらう患者さん、そして先生が今現在診察していて、開業後も付いて来てくれる患者さん等です。開業場所を探す前に、どのように患者さんを獲得するかという戦略を立てる必要があります。

クリニックは保険診療が基本です。美容整形などは自費診療のため例外ですが、保険診療の場合、売り上げというのは来院患者数と診療単価で決まってきます。診療単価は専門科目や診療内容によって違いがありますので、まずは先生ご自身が外来の診療単価をよく知る事が大切です。開業する前から、確保できる患者数と診療単価がわかれば、売り上げを簡単に予想することができます。また支出する経費としてテナントの家賃やスタッフの人件費、光熱水費などがわかれば、クリニック経営が黒字になるのか赤字になるのかは予め判断できます。

診療単価はある程度決まってくる要素ですから、やはり患者さんを増やす事が売り上げを伸ばすための鍵になると言えるでしょう。

患者さんに付いて来てもらう

私共に開業相談にいらっしゃる先生方には、開業までの期間にする事として、よくこんなお話をします。勤務先の病院の環境が許せば、今診ている患者さんを連れて開業するのが一番安全な開業方法であり、医院経営のリスクを最小限にする事ができます。それを実現するためには、今診ている患者さんを新規開業するクリニックに来て頂くお客様として、明日から親切丁寧に診察することです、と。

病院で診ていた患者さんに、開業してからも付いて来てもらうためには、開業準備の期間こそ、これまで以上に真剣に患者さんに向き合わなければならない時期であると言えます。その時には、開業したら本当に来てくれる患者さんの名前を手帳に書いてください。それらの患者さんの数とご自身の診療単価を掛ければ、開業初月の売り上げを推計することができます。同時に開業してから掛かるであろう経費を想定することで、開業初月からの黒字経営が実現可能かどうかを予測することができます。

病院と友好的な関係を作る

一方、患者さんだけでなく、勤務先の病院に目を向けることも大切です。「立つ鳥、跡を濁さず」の言葉通り、病院を退職する最後のその日まで、病院の仕事を一生懸命、誠実に行うことで、病院に残る上司やスタッフさんからも友好的に見送ってもらえます。そういった関係が築けていれば、開業してからも患者さんを紹介してもらえたり、沢山の応援を得ることが出来るようになるのです。また開業後も病院の外来に診察のコマを残しておいてもらえれば、理想的な病診連携を実現する事が可能になります。

たとえ病院での地位が高かったとしても、退職して開業してしまえば赤の他人のように見られてしまいます。病院を退職してからも友好的な関係を継続していく為には、退職する直前までどれだけ実績を残したか?、病院の一員としてどれだけ貢献できたか?、という事が非常に大切になってきます。

6-3. 開業に適した「スキル作り」

開業に適した「スキル作り」

落下傘開業の心得

患者さんを連れての開業や勤務先との病診連携が可能であれば、クリニック開業のハードルはグッと低くなるのですが、様々な理由からそういった状況を作るのが難しい先生方もたくさんいらっしゃいます。そういった場合は落下傘開業となりますが、売り上げの基盤のないところからのスタートですので、一から患者さんを獲得していかなければなりません。

落下傘開業では、これまで身に付けてきた専門性を売りにして集患するというよりも、来院する患者さんのニーズに合わせて様々な医療技術を提供することの方が求められる様になります。新天地での開業はどのような患者さんが来るか分からないという事もありますし、またどのような患者さんも受け入れないと経営が成り立たないという現実もあります。

落下傘開業でも安定したクリニック経営を維持していく為には、「場所」と「商品」と「サービス」が重要になります。「場所」に関してはこちらで書いていますので、ここでは「商品」と「サービス」についてご説明します。

クリニックの「商品」とは、クオリティの高い医療技術

都市部に限らず、今はどこでも競合が多くいる中で開業しなければならない時代になっています。全ての経済活動で言えることですが、営業活動の中ではリピーターの獲得が最優先に考えられています。クリニックも固定客を作らなくては安定した経営を続ける事はできません。そのために必要なのは、第一にクオリティの高い医療技術という「商品」を提供していくことです。

かつては医師不足、開業医不足で需給バランスが崩れていた為に、どこで開業しようと、どのような医療を提供しようと、医院開業で失敗するケースは皆無と言ってよい程でした。しかし、「数が増えると貶められる」と言う言葉があります。今まさに歯科医院や都市部の内科医院が供給過多の状況にあり、相対的にその地位が低下していて、安定した経営を継続するには常に気の抜けない状況にあると言えます。

開業準備の期間というのは、スキルを磨くことを第一とし、準備期間の内に様々なスキルを身に付けておくべきです。クオリティの高い医療技術を提供する為には、一定の時間を掛けた真剣な研修が必要となります。専門外の領域であろうと、ご自身が興味を持って真剣に取り組めば様々な分野に亘る医療技術を取得することができ、集患する上での大きな魅力となります。

医院開業においては、患者さんの求めるスキルを磨いておく事や地域医療に貢献する事も、集患を促進するのに重要な要素となります。例えば、内科の専門医であっても小児科の診療ができれば、ファミリークリニックとして地域のニーズに応えることができます。また女性医師であれば、美容に関する医療技術が患者さんに喜んでもらえる大きな魅力ともなります。どの様な業種でも共通して言える事は、お客様の求めるものがそこにあれば繁盛するという事です。

患者さんに得をしたと思ってもらえるような「サービス」

しかし現在の過当競争の中では、スキルを磨くだけでは十分とは言えません。患者さんがまたここに来たいと思うような、琴線に触れるような「サービス」が必須となります。

例えば、先生方がお食事に行く時の事を思い浮かべてください。お金を払ってご飯を食べるのですから、お食事は美味しくて当たり前です。ただ美味しいだけのお店ならたくさん有るのですが、その中でももう一度行きたいと思わせるお店が有れば、その理由は何だったのでしょうか?お店のスタッフの対応が良く、とても良い気分の中で美味しいご飯を頂けたという事ではなかったでしょうか?

人は得をしたと思えば、それを繰り返します。反対に損をしたと思えば、ニ度と繰り返しません。クリニックにに迎える患者さんにも、得をしたと思ってもらわなければならないのです。落下傘開業の準備期間には、スキルを磨くのは勿論のこと、患者さんが得をしたと思ってまた来てもらえるようなサービスを身に付ける事もとても大切です。

自由診療のこと

現在は皮膚科を始めとして、自由診療を行うクリニックが増えています。保険診療では診療単価が統一されていて、また診療内容にも制限が加わることになります。一方、自由診療は提供する医療技術に見合った価格設定が可能であるばかりでなく、良質な顧客の信頼を得ることができれば高い収益が見込めます。

良質な顧客ほどサービスに対する評価はシビアですが、サービスに満足すれば、それに見合う支払いには何の抵抗もありません。要は、自分が得をしたと思うからです。例えば、銀座に行ってブランド店でわざわざ高い買い物をする人の心理は、それが自分にとっての満足であり、その買い物をすることによって自分が得をしたと思うからです。支払いがいくらであろうとも、自分が得をしたと思えば、また買いたくなるという事です。

サービスの対価としての金額が高いか安いかというのは相対的なものです。自由診療を行うのであれば、価格以上の価値があったと思ってもらえるように、常にスキルとサービスを向上させていく必要があります。

7. 個別の論点 ー 開業に向けて避けては通れない「難所」の数々

(現在、執筆中です。)

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執筆者

コンサルタント
一級建築士
金村かねむら 伯重のりしげ

金村伯重

経歴

昭和54年
病院システム開発研究所 入社
東京医科大学病院、焼津市立病院、富士市立中央病院、沼津市立病院、富士宮市立病院などの建替計画に参画
昭和59年
医療機構開発株式会社 入社
町立浜岡病院(現御前崎市立病院)新設に参画
昭和63年
オクスアイ医療事業開発株式会社設立

以来30年以上に亘り、数多くのクリニック開業をサポートしている。

総合病院であらゆる診療科目の医療現場に携わり、多岐に亘る分野の技術に精通する。また一級建築士である事から、施設造りまで自社で一貫して行う。クリニック開業を成功に導くソフトとハードの技術を確立し、他に例を見ないコンサルティングを実践。これまでサポートしたクリニックを全て成功に導いている。