クリニック開業 成功への道のり

クリニック開業を志す先生方へ

開業医の増加や開業規制の検討など、近年はクリニックの新規開業を志す先生方にとって厳しい時代になってきました。やみくもに開業をしても経営が行き詰まる恐れがありますので、開業前にしっかりとした準備をすることが明暗を分けると言えるでしょう。

この記事はクリニック開業を志して情報収集をしている先生方へ向けて、開業までの道のりの中で重要になる事柄について、実践的で具体的な解説を行っています。先生方に開業して成功して頂くことを目的に書いていますので、長くなりますが最後までお付き合い頂けましたら幸いです。

1. はじめに

オクスアイ医療事業開発株式会社 代表

略歴

昭和54年 病院システム開発研究所 入社
東京医科大学病院
焼津市立病院
富士市立中央病院
沼津市立病院
富士宮市立病院などの建替計画に参画
昭和59年 医療機構開発株式会社 入社
町立浜岡病院(現 御前崎市立病院)新設に参画
昭和63年 オクスアイ医療事業開発株式会社 設立

以来30年以上に亘り、数多くのクリニック開業をサポートしている

ご挨拶

初めまして。オクスアイ医療事業開発株式会社の代表を務めております、金村です。

わたくしの経歴を簡単に申し上げますと、若い頃に建築を学び、病院建築に興味を持ったご縁から、病院経営をサポートするコンサルティング会社に勤務し、全国の病院の経営改善に従事して参りました。その後、弊社を設立してからは、かれこれ30年以上になりますが、これまでに160件くらいのクリニックの開業をサポートして参りました。

開業をお考えの先生方は、開業について不安なことや疑問に思っている点がたくさんお有りのことと思います。

医師の先生方が思われる、開業に関する具体的な不安や疑問について、この記事で一つ一つ丁寧にお答えしていきたいと思い、文章をまとめました。長くなりますが、これから開業をお考えの先生方のお役に立てるだろうと思いますので、どうぞ最後までお付き合い頂ければと思います。

2. まずは「先生方の不安」にお答えします

先生方の不安

私はこれまで、多くの先生方にお会いしてきました。その中で、この様にほぼ共通した質問を受けます。
「自分は開業に向いているのだろうか?」
「開業して、うまくやって行けるだろうか?」
「経営のことなど勉強したことがないのに、大丈夫だろうか?」
「開業しても、過当競争で患者さんが来てくれないんじゃないだろうか?」
「開業規制のために、都内での開業はできなくなってしまうのではないだろうか?」

先生方のお気持ちはよくわかります。医院開業には大きな資金の投入が必要となりますので、万に一つも失敗は許されません。それが自己資金であろうと借入金であろうと、設備資金と運転資金を合わせると、開業には数千万円の資金投入が必要です。

開業が成功すれば、それらの投入資金は何十倍にもなって戻って来ますが、仮に開業が失敗すれば、それらの資金を失うだけでなく、莫大な負債が残ることとなり、その返済のために多くの時間と労力を費やすことになります。また家族にも大きな心労をかけることになってしまいます。

開業するということは、言ってみれば未知の世界に飛び込む訳ですから、その様に心配されるのは当然の話だと思います。

医院開業の定石

しかしながら、物事には全て定石というものがあります。こうすればこうなるという、物事の定理と言っても良いかも知れません。先生方が長らく医学を学び、数多くの臨床を経験されてきた中で、先を見通す力を身に付けて患者さんの治療に成功されてきた様に、医院開業にも、開業を成功させる技術に関しても、定石があります。

ただし、その定石を知っていれば失敗することはないのかと言えば、世の中はそう単純なものではありません。医院開業に関わる様々な定石を踏まえた上で、豊富な経験により最適な状況判断を下すことで、多くのリスクを回避していくことが必要です。それらを乗り越えて初めて、開業を成功させることができるのです。

それは、医学生が教科書で勉強しただけでは患者さんの治療はできないのと同様です。一人前の医師になるまでには、医学部で学んだ定石を基礎として多くの臨床経験を経る必要があり、患者さん個々の個体差を経験することによって効果的な治療を実践することができるようになるのではないでしょうか?

これから、医院開業に関わる大変多岐に亘る分野の定石や技術について、また私が30年以上に亘って経験した「開業成功への道のり」について、実践的なお話をさせて頂きたいと思います。

【 まとめ 】
・多くの先生方が、医院開業をして成功できるのかどうかと不安を抱えている
・医院開業にも、成功させるための定石がある
・その定石を踏まえた上で、状況に応じて最適な判断を積み重ねていくことで、開業を成功させることができる

3. 医院開業の「分かれ道」

開業相談にいらっしゃる先生方に、私はいつもこのようなお話をさせて頂いております。医院開業には「場所」「資金」「タイミング」が最も大切です、と。それはこの3つの判断を間違えると、開業そのものが失敗に終わる可能性が高くなるからです。

それでは順を追ってご説明していきます。まずは医院開業の「タイミング」から始めましょう。

3-1. 開業の「時期」はいつが良い?

人が行動を起こす時というのは、状況が必然的に後押しする場合も多くあります。医院開業をするタイミングも、先生方それぞれの状況に後押しされ、最後はご自身が開業に対して躊躇することがなくなった時を掴むのが最適です。

家族の将来のために開業する場合

開業の動機として多いのは、将来の家族の生活を豊かなものにするため、というものではないでしょうか?医師としてのキャリアを十分に重ね、また結婚もして家族が増えれば、将来についての想いを様々に抱くようになるでしょう。

特にお子様の将来を考えた時には、収入の問題が現実に迫ってきます。例えばお子様にも医学部への進学を望まれるなら、勤務医のままでその学費を賄えるでしょうか?

その場合は、お子様が小学生の内に開業をして、中学生になる頃には経営を安定させ、高校生になる頃には医学部の学費に足る程度の貯金をしておく、というのが理想です。

育児との両立のために開業する場合

また近年増えているのが、女性医師の開業です。中には、子育ての時間を取るために開業したいという、お母さん先生もいらっしゃいます。病院勤務では勤務時間の調整にも限界があるため、子育ての時間を確保しつつも医師としての人生を全うする方法として、開業を希望する先生が増えています。

このような場合、経営としては赤字にならずに、勤務医程度の収入が確保できることを目標にします。開業時期としては、中学受験の準備に重ならないように、お子様が小学校低学年くらいの頃が理想的と言えるでしょう。

反対に、お子様が3歳を過ぎるまでは開業はお勧めしません。お子様は3歳までに一生分の恩を返してくれるものですから、開業のことなどは考えず、人生で一番幸せな時期を大切に過ごしてください。

定年後の生き甲斐のために開業する場合

定年退職後の人生を見据えて開業する先生もいらっしゃいます。この頃は医師としての人生の総決算の時期に当たりますから、生き甲斐として開業することになるでしょう。

そのためには、借金は禁物です。政府系の金融機関である日本政策金融公庫では60歳を過ぎても借り入れは可能ですが、借金を背負うことで経営に負担が掛かってしまうようでは、生き甲斐という開業の目的から外れてしまいます。

したがって、基本的には開業資金を全額自己資金で賄えるというのが、開業する上での一つの条件です。利益を上げることに囚われることなく、社会貢献や自己実現を果たすために開業するのであれば、自己資金を潤沢に蓄えた時に開業するのが最適と言えるでしょう。

【 まとめ 】
・医院開業をするタイミングは、ご自身の躊躇がなくなった時が最適
・開業の目的によっても、開業に最適なタイミングは異なる

3-2. 開業の「場所」はどこが良い?

開業の「場所」はどこが良い?

次は医院開業の「場所」についてです。開業場所を考える上で、建物自体を新たに建てる「戸建て開業」なのか、既存の建物の一室に入居する「テナント開業」なのかによって、開業に掛かる費用や期間は大きく変わってきます。そこで、まずはそれぞれの開業形態についてご説明します。

戸建て開業はリスクが高い

戸建て開業は、今や東京都心ではほとんど見られなくなりましたが、首都圏の郊外や地方都市などでは、まだハウスメーカー等が主導して計画されることが一般的な様です。しかし、私どもはこの様な開業は大変リスクが高いものとして、基本的には戸建て開業をお勧めすることはありません。

特に自宅を併設した戸建て開業の場合には、資金の多くが自宅部分に費やされてしまい、事業の目的である医院部分に回る資金が圧迫される傾向にあります。なぜなら、自宅部分の計画は家族の意向が強く反映されることになりますが、家族にとっては一生に一度のイベントなので、どうしても良い物の組み合わせになりがちだからです。

戸建て開業をするためには

このように、戸建て開業は投資効率が下がるというリスクを抱えています。もし戸建て開業をするなら、少なくとも土地と自宅部分に掛かる費用に関しては、自己資金や親御さんからの援助など、返済の必要のない資金で賄うことが望まれます。

まずは医院開業に資金を集中させ、その上で成功すれば思い通りのお屋敷を建てることができますので、長期的な視点でお考えください。自宅はお金を生み出さないのです。

【 まとめ 】
・戸建て開業は、自宅併設にすると医院部分に資金が回らなくなる恐れがあるので、リスクが高い
・戸建て開業をするなら、土地と自宅部分は自己資金で賄いたい

3-3. 「テナント開業」がオススメ

開業の「場所」はどこが良い?

テナント開業の利点

私どもがお勧めする開業形態はテナント開業です。テナント開業の利点は選択肢が多いということです。

戸建て開業の場合は土地と建物が絡んできますので、場所の選択肢はかなり限られてしまいます。

一方、テナント開業の場合は、どのような場所でどのような医療を行いたいのかという先生の希望に適う場所を、多くのテナントビルの中から選択することができます。また、始めは小さな規模で開業し、経営が安定して資金が貯まったら、規模を拡大するために移転開業するということも可能です。

理想的な物件とは?

ただし現実問題として、理想的な物件というのはそう簡単に見つかるものではありません。そのため、候補となる物件の中から相対的に理想に近い物件を選ぶというのが妥当な線になります。この時に高い理想に拘り過ぎると、いつまで経っても開業場所を決めることができなくなってしまいます。

理想的な物件というのは、開業して速やかに黒字化を達成できる見込みのある物件だと考えるようにしてください。

良い物件の見分け方

そこで、良い物件かどうかを見分けるためのポイントをご紹介します。
・患者さんに来てもらえる立地かどうか?
・効果的な看板の掲示が可能かどうか?
・クリニックとしての構造設備に問題がないかどうか?

良い場所というのは、お客さんに来てもらえる場所のことです。それは言い換えれば、人がたくさん集まりやすい場所とも言えます。駅前や商店街、スーパーの周辺などは毎日大勢の人が集まって来ます。商品やサービスを販売する仕事は、そのように人が集まりやすい場所で開業するのが基本です。

クリニックも同様で、多くの人が集まりやすい場所で開業しないと、患者さんを集めるのに苦労することになります。例えばご自身がカフェを開くと仮定して、選んだ所が果たしてお客さんに来てもらえる場所なのかどうかと考えてみるのも一つの基準になるでしょう。

また、ビルの窓面や屋外に看板を掲示することにより、クリニックの認知や集患に大きな効果が期待できます。しかし、貸主であるオーナーがビルの外観の変更を好まない場合は看板の掲示を許可しないこともありますので、契約する前の段階で承諾を取っておく必要があります。

構造設備の事前確認も重要

候補となるテナントがクリニックに適しているか、構造設備の面で確認しておくことも重要です。例えば、大きなオフィスビルではトイレも含めて給排水設備がテナントの外に設けられていて、テナント室内に給排水設備が整っていないということもあるためです。このような状況では、クリニックを作ることは困難です。

また診療科目別に見ると、整形外科や呼吸器内科などは高圧撮影が可能なX線装置を設置することになるのですが、それを動かすためには容量の大きい電源が必要です。通常、テナント室内に来ている電源だけでは間に合わないため、電気工事を行って新たに電源を引き直す必要があります。

このように、既存の構造設備によってクリニックの開業が左右される場合もありますから、開業場所を探す際には気を付けてください。

【 まとめ 】
・テナント開業の利点は、場所や面積など、選択肢が多くなること
・良い物件の条件は、人が集まりやすい場所にあるかどうか
・看板の設置条件や建物の構造設備も、事前に確認しておく必要がある

4. 医院開業を取り巻く「資金」のお話

医院開業には「場所」と「資金」と「タイミング」が最も大切、ということで、「タイミング」と「場所」について説明してきました。残りは「資金」ですが、開業資金については先生方の関心も大きいと思いますので、ここではかなり具体的なお話をさせて頂きます。

クリニックの開業には、たとえ小さな規模で始めようとも、設備投資と運転資金を合わせると数千万円の資金が必要になります。これまでお会いした先生方の中で、何人かは全額を自己資金で賄った方もいらっしゃいましたが、それだけの額を貯金するというのはなかなか難しいことです。そのため、基本的には銀行からの借り入れによる資金調達が必要となってきます。

まずは借り入れによる資金調達、つまり融資を受けることに関して、その仕組みや実際の手順などをご説明します。

4-1. 今の時代の「融資」とは?

長期化するゼロ金利政策の影響とキャッシュレス社会の到来と共に、近年、銀行の存在価値がだんだん薄れてきたようです。しかし現状では、現実的な資金調達の方法として、銀行から融資を受けるケースが多いです。

銀行融資のジレンマ

銀行の審査基準から見ると、クリニックを開業しようとする医師は大変優良な貸し出し先として分類されています。実際、銀行に開業資金の融資の話を持ち掛けると、大変熱心に勧誘をしてきます。

しかし、銀行の融資は「銀行法」という大変厳格な法律により様々な規制を受けており、銀行が融資によるリスクを被らないよう保護されています。融資を行うためには、事業の実績や不動産担保、連帯保証人等が必要となるため、容易に審査が通る訳ではありません。

新規のクリニック開業は事業の実績がないため、基本的には銀行独自では融資を行えないことになっています。しかし、銀行としては医師にお金を貸したいのです。そこでどうするかと言うと、信用保証協会の審査を受けるよう要請されます。

信用保証協会というのは、昭和28年に法律により定められた公益法人で、中小企業の資金繰りを円滑化するために、銀行融資を受ける際にその債務を保証する機関です。信用保証協会の保証を受けることができれば、銀行はリスクゼロで融資を実行することができるという構図になっています。

尚、銀行の融資金利自体はゼロ金利の影響で0.4%程度の低金利ですが、信用保証協会に対しては保証料を支払う必要が出てきます。そのため、融資の金利を見る時には銀行だけでなく、信用保証協会の保証料も加味して検討する必要があります。

銀行独自の金融商品

銀行法に縛られている銀行融資ですが、中には新規開業に融資を行えるように銀行独自で開発した金融商品もあります。

現在では、みずほ銀行の「みずほクリニックアシスト」という商品が5千万円まで無担保・無保証人でクリニック開業の資金を貸し付けしてくれますので、最も使い勝手が良いと思われます。この商品は、みずほ銀行の関連会社であるシャープファイナンスが融資に対する連帯保証をすることにより成立しているものです。この場合、みずほ銀行の融資金利自体は0.4%前後ですが、シャープファイナンスへの保証料として、融資の元金の1%を支払う必要があります。

日本政策金融公庫

市中銀行以外で新規開業資金の調達が可能な所もあります。代表的な機関としては、日本政策金融公庫が挙げられます。

日本政策金融公庫は国の組織で、事業実績のない新規開業にも、女性の独立にも、誠実に対応してくれます。こちらはプロパー融資といって、独自で審査を行い、自らの責任で融資の実行を判断するという仕組みです。ただし、資金の貸し出し金利は2%前後と、昨今の銀行金利と比較すると割高感は否めないところです。

【 まとめ 】
・一般的に、事業の実績がない新規開業のクリニックは、融資を受けるために信用保証協会の保証を受ける必要がある
・銀行が独自に開発した、新規開業に対して融資を行える金融商品もある

4-2. 融資を受けるための「条件」

融資を受けるための条件

さて、実際に融資を受けるためには、金融機関の審査を経なければなりません。審査では何を見られるのでしょうか?融資を受けるための主な条件をお伝えします。

過去に金融関係の事故がないこと

まず、過去に金融関係の事故がないことが前提となります。金融関係の事故というのは、住宅ローン等の支払いが滞ったり、クレジットカードの未払いがあったり、サラ金から多額の借り入れがあったりといったことです。この様な金融事故は、CICというデータバンクに全て記録されています。

融資の審査の第一歩は、この記録を閲覧して過去に問題を起こしていないかどうかを確認することです。もちろんこれらは重大な個人情報ですので、先生の承諾を得てから問い合わせをすることになりますが。

普通は問題ないのですが、たまにクレジットカードの引き落とし日にうっかり預金の残高が不足していたということがあると、これも金融事故の一つとしてCICに記録されていて、融資の審査においてはネックになる場合がありますのでご注意ください。

団体信用生命保険への加入

銀行融資を受けるのであれば、団体信用生命保険への加入はほぼ必須の条件となります。団体信用生命保険というのは、融資を受ける人に万一のことがあった場合、保険会社が融資をした金融機関へ返済の肩代わりをするための保険です。

特に無担保の融資を受けようとする場合は、院長が万が一亡くなった時の保全として義務付けられます。日本政策金融公庫からの融資を受ける場合には加入は任意ですが、万一のことを考えるとやはり加入しておいた方が良いと思います。

加入するためには当然、健康であり病気になる不安がないということが要件になります。最近通院したか?何かの薬を飲んでいるか?何かの病気に罹っているか?など、3つ程の質問事項に告知が求められます。ここで注意すべきは、告知の上では「完全に」健康体でなくてはならないということです。というのも、融資のための団体信用生命保険の場合、健康への不安が1つでもあると、加入を断られてしまうからです。

事業というのは、やってみなければ成功するかどうか分からないものです。そのため、新規に起こす事業に対して金融機関が担保できることとして、本人が健康であり病気になる不安がないというのは最低限の条件なのです。つまり、健康であれば多少の困難があろうとも乗り越えられますが、持病があれば厳しい状況を乗り越えるのは難しいと見なされるということです。

【 まとめ 】
・融資を受けるための条件の一つは、過去に金融関係の事故がないこと
・団体信用生命保険に加入するためには、完全に健康体でなければならない

4-3. 融資の「申込」から返済まで

それでは、融資を受けるためには、具体的に何をすれば良いのでしょうか?融資の申し込みから契約まで、やるべきことの大半は書類の作成です。ここでは一例として、みずほ銀行の「みずほクリニックアシスト」で融資を受ける場合の手順をご紹介します。

融資の申し込み

まずは融資の申し込みを行います。開業するクリニックに関することとしては、以下の書類が必要になります。

1.テナントの賃貸借契約書の写し
2.資金の流れや収支計画を記載した事業計画書
3.クリニックの設備投資に関する見積書(内装工事・看板工事・什器備品・電子カルテ・各種医療機器など)

また個人情報に関することとして、以下の書類も用意します。

1.履歴書
2.運転免許証の写し
3.医師免許証の写し
4.過去3年分の確定申告書もしくは源泉徴収票
5.自己資金を証明するため、預金通帳や積立保険、有価証券など金融資産の写し
6.自宅が持ち家の場合、固定資産税支払い証の写し
※ 融資契約を締結する際、印鑑証明書と実印が必要になります。

加えて、団体信用生命保険への加入などを行い、申し込みが完了します。

融資の審査・契約

審査は保証会社であるシャープファイナンスが行い、2週間ほど掛かりますが、審査に通れば契約となります。

契約はみずほ銀行の担当支店へ赴き、契約書類への署名・捺印を行うことで締結されます。その際、みずほ銀行とシャープファイナンスの2社と契約することになります。

融資の実行・返済

融資の実行は、みずほ銀行の所定の口座への入金となります。申し込みから実行までは、およそ2ヶ月ほどを見込んでおいた方が良いでしょう。設備資金と運転資金として、2つの契約で実行されます。

返済は初回の実行から1年間の元金据え置き期間を経て開始され、毎月の返済日に引き落とされることになります。

【 まとめ 】
・融資の申し込みには、様々な書類が必要になる
・融資の申し込みから実行までは、およそ2ヶ月ほどの時間がかかる

4-4. 資金の流れを「管理」する

銀行からの融資について具体的に見てきましたが、一方で支払いのことも考えなくてはいけません。収入と支出という資金の流れを一元管理するためにも、まずは事業用の口座を作る必要があります。ここからは、実際にクリニックを経営する上でのお金の管理について見ていきたいと思います。

事業用の口座を作る

クリニック開業に伴う費用の支払いというのは、開業場所を定めてテナント契約をするタイミングで始まります。テナント契約では、保証金、礼金、不動産仲介料、前家賃、家賃保証会社への保証料などを支払うことになり、立地や規模により違いはありますが、一般的には数百万円ほどの額になるでしょう。

また開業すると、今度は毎月の家賃や光熱水費、給料、医薬品や診療材料などの仕入れ、検査委託などの外注費に対して、それぞれ支払いをしていくことになります。

こうした様々な支払いを行うためにも、事業専用の口座が必要になります。各種の支払いを一つの事業用口座でまとめると、お金の流れが明確になり、資金の管理がしやすくなります。また開業すると個人事業主となり、帳簿の作成や税務署への申告などをすることになるのですが、その際にも事業用の口座を作っておくと便利です。

口座を使い分ける

銀行から開業資金の融資を受ける場合、普通はその銀行に口座を作り、融資の振り込みから借入金の返済までを、その口座を通じて行うことになります。銀行としては、その口座を事業用のメイン口座としても使ってもらいたいのですが、その銀行が必ずしも開業するクリニックの近くにあるとは限りません。

いざ事業を始めてみると、何かと銀行へ出向く機会が多いので、クリニックの近くにないというのはとても不便です。そのため、融資を受けた銀行の口座は借入金の返済のためにのみ使用して、事業用のメイン口座はクリニックの近くの銀行に作ることをお勧めします。

メイン口座というのは、運転資金や診療報酬、そして各種の支払いなど、様々なお金の流れを一元化するものですが、クリニックの資金が集約されている訳ですから、院長先生ご自身が厳重に管理しなくてはなりません。

一方、日常的には窓口現金の入金やお釣り銭の両替などをスタッフに頼んで銀行で行ってもらう必要が出てくるのですが、大金の入ったメイン口座の通帳をスタッフに預ける訳にもいきません。そのため、もう一つ口座を作っておき、余計な預金を入れないでスタッフに持たせ、銀行での処理を行ってもらうようにすると便利です。

【 まとめ 】
・クリニックの経営に伴う資金の流れを一元管理するため、事業用の口座を開設する
・メイン口座はクリニックの近くの銀行に作った方が良い
・スタッフに銀行での処理を行ってもらうため、口座をもう一つ作っておくと便利

4-5. キャッシュレス決済への移行

余談になりますが、資金に関連するお話として、昨今のキャッシュレス決済について、私見を述べさせて頂きます。

キャッシュレス社会の推進

2019年に消費税率が10%へ引き上げられましたが、政府はその見返りとして、キャッシュレス決済に対するポイント還元というキャンペーンを展開しました。そこには、政府が目指すキャッシュレス社会の実現という、もう一つの目論見もありました。

キャッシュレス社会は、行政にとっては現金を流通させるための膨大なコストを削減できるばかりでなく、資金の移動を完全に把握できるというメリットもあります。そのため、売り上げを隠したり、私用の支払いを事業経費に混ぜ込んだりといったことが難しくなりますので、脱税に対する強力な抑制効果が期待できます。そういったことから、政府はポイント還元という飴をばら撒いて、キャッシュレス決済の定着を図ってきました。

クリニックでの導入

今、現金を持たずに出かける人が増えています。最近は病院でも薬局でもクレジットカード払いが当たり前になっていますし、クリニックで支払う自己負担分も現金払いからキャッシュレス決済に変わりつつあります。

クリニックとしては、決済に際して3%程度の手数料を負担しなければいけないのですが、保険診療の自己負担分はそれほど高額にはなりませんから、手数料といっても知れたものです。毎日のお釣り銭の両替の手間を省くことができると考えれば、多少の手数料を払ってもクリニックの運営にとってはプラスになると思います。

このように、これからのクリニックではキャッシュレス決済を進めることが一般的になってくるでしょう。

【 まとめ 】
・政府の方針により、キャッシュレス社会が到来している
・クリニックでも、今後はキャッシュレス決済を進めた方が良い

5. 医院開業の指針となる「事業計画」

上述しました融資の説明の中で、申し込み書類の一つとして事業計画書を挙げましたが、ここではその事業計画というものについて、少し詳しくお話させて頂きます。

事業計画とは

開業資金の融資を受けるためには、新規事業の運営方針や収支計画などを詳細に記載した事業計画書が必要になります。開業するクリニックをどのように経営して売り上げを上げ、借入金を返済していくのかという計画を金融機関に提示することによって、融資の審査の材料とするのです。

焦点は収支の予測がどうなるのかというところですが、事業計画では支出する費用は多めに計上し、売り上げによる収入は少なめに見ておくことが原則です。多くの場合、初年度というのは赤字経営を覚悟しておかなくてはなりません。開業2年目で勤務医程度の収入が得られ、3年目で事業が軌道に乗るような計画が現実的です。

このように、事業計画書は金融機関への説明資料となるものですが、その本質はそれだけに留まりません。と言うのは、事業計画の中身を突き詰めていくことにより、それは開業するクリニックが生き残るための方法を記したサバイバルプランともなり得るからです。

費用のシミュレーション

医院開業の事業計画は、まずはどのように開業するのかという開業スタイルを検討することから始めるのが良いでしょう。提供する医療サービスの内容によって、そのクリニックに必要な要素は変わってきますから、掛かる費用も前後します。

また、多額の費用がかかるのは開業場所やクリニック作りに関する事柄です。どのような場所で、どれくらいの広さで、どの程度の装備をするのか、ということも検討してみてください。面積が広くなればゆとりのあるレイアウトができますが、内装工事の費用が増えるという面もありますから、開業スタイルに沿って優先順位を付けることが重要です。

このようなシミュレーションを繰り返していると、ご自身にとってどのような開業の仕方が最適なのかという指針が見えてくると思います。事業計画を作成するというのは、クリニックの計画に対する判断基準を明確にすることでもあるのです。

売り上げを予測する

一方、開業後の売り上げを予測することも、事業計画を立てる上ではとても重要です。保険診療の売り上げは「診療単価 × 患者数」という式で表されます。

私は開業相談にお見えになった先生方に、「ご自身の診療単価」をご存じでしょうか?という質問をします。血液検査をしたら、いくらになるのか?エコーの料金はいくらか?心電図はいくらか?

ほとんどの先生方は、日々の診療がどれ程の報酬になっているのか、ご存じないようです。しかし、世の中の経営者は自社の商品の原価と販売価格を常に念頭に置いて経営をしているものです。

開業を目指す先生方は、今日からでも「ご自身の診療単価」を頭に入れるようにしてください。そうすることによって、事業計画というものは現実味を帯びてきます。

特に勤務先の病院で診ている患者さんを連れて開業する場合には、患者さん一人一人の診療内容がよく分かっているので、売り上げ予測は容易にできるはずです。それができれば、何人の患者さんに来てもらえれば経営が成り立つのかも計算できます。

開業後も指針となる事業計画

医院開業の指針となる事業計画ですが、一度立てたらそれで終わりという訳ではありません。あらゆることは日々変っていくものです。計画を綿密に立てても、全てがその通りになる訳ではないというのもまた事実です。

開業して事業を軌道に乗せるためには、事業計画と開業後の現実とを照らし合わせ、軌道修正をしていく作業が必要です。きちんと練られた事業計画は、その時に進むべき道筋を明確に示してくれることでしょう。

【 まとめ 】
・事業計画では、支出は多めに、収入は少なめに見るのが原則
・事業計画は開業の方針を明確にし、また開業後にも軌道修正が必要な際の指針になる
・開業後の売り上げを予測するため、ご自身の診療単価を把握する

6. 重要なのは「準備期間」をどう過ごすか

さて、クリニックを開業するまでにはどのような道のりが待っているのか?ということの片鱗を、ここまでで具体的にイメージして頂けたかと思います。ここで改めて開業までのスケジュールを概観し、開業準備期間をどう過ごすかについてご説明したいと思います。

6-1. 病院開設の「スケジュール」

上の表は、開業までの大まかな流れを図示したものです。開業準備というのは実に多岐に亘る要素から成り立っていますが、ここではテナント開業の場合を例に取り、開業準備の中でも主だったものを挙げています。そしてそれぞれの準備をいつ行うかというのは、開院日から逆算すると概ね決まってきます。

いつ、何をするか?

開業準備というのは、大きく3つの期間(初期、中期、後期)に分けて考えると良いと思います。初期は開業を決意してから開業場所が決まるまで。中期はクリニックの具体的な計画が固まるまでのおよそ3ヶ月間。後期は実際にクリニックを作って開業するまでのおよそ3ヶ月間です。

開業準備の初期は、クリニックの方向性を模索する期間と言えるでしょう。開業コンセプトや診療方針を考え、それを事業計画に落とし込むなどして、クリニックの輪郭をはっきりさせていくというのが主眼です。そうした視点を備えた上で開業場所を選定するのが理想です。

開業場所が決まったら、開業準備の中期にはクリニックの青写真を描いていきます。内装の設計や医療機器の選定、各種官庁への事前相談など、構想を練り、それが実現可能かを検証する期間と言えます。また融資の申し込みも早々に行い、開業資金を確保することが先決です。

開業準備の後期は、実際にクリニックを作っていく期間です。ハード面では内装工事やサイン工事、医療機器や診療材料の納入など、ソフト面ではスタッフの採用や各種の届け出、そして宣伝活動など、大小さまざまな準備が待ち受けています。

今から始める開業準備

このような道のりを経て、晴れて開業を迎える訳ですが、それはゴールではなくスタートです。開業後まず目標とすべきは、経営を軌道に乗せることではないでしょうか?そして運転資金にも限りがあることを考えると、いかに早くその目標を達成するかが開業成功の分かれ目になってきます。

開業してからは待ったなしです。そのため、開業までに周到な準備を行っておくことが重要です。この記事をお読みになっている先生方は、開業準備の初期にいる方が多いのではないでしょうか?実は、開業を思い立ったら始めて頂きたい準備があります。

その準備というのは、「自己資金」「患者さん」「医療技術」です。それでは、これから一つずつ具体的に説明していきます。

【 まとめ 】
・開業準備は、開院日から逆算して概ね流れが決まっている
・開業までにしっかり準備をしておくかどうかが、開業成功の分かれ目になる
・今から準備しておくべきは、自己資金、患者さん、医療技術の3つ

6-2. 「自己資金」が必要な訳

開業のための「資金作り」が必要な訳

医院開業には数千万円の資金が必要になる訳ですが、預金などの自己資金だけでそれを賄えるケースは稀ですから、開業資金は全額を借入金で賄うというのが基本です。しかし、それでも自己資金が必要になる場面というものがあります。

自己資金によるテナント契約

実際に自己資金が必要になる場面というのは、物件を押さえる時です。テナント開業の場合、開業場所として良い物件が見つかった時に、その物件を速やかに確保するためには賃貸借契約を交わす必要があります。その契約金を支払うために必要になるのが、自己資金という訳です。

良い物件というのは、長い間探していてもなかなか見つからない場合もありますし、逆に探し始めてすぐに出てくることもあります。まさに理想的な物件と巡り会うというのは、ご縁によるところが大きいのではないでしょうか。

ところが、ようやく巡り会えた物件が良い所であればあるほど、同時期に複数の申し込みが入ることがあります。通例では一番手の申し込みに契約の機会が回ってくるのですが、その時に契約金を支払うことができなければ、そのチャンスは流れてしまいます。そのため、機を逸せずに契約をするためには、自己資金からすぐに支払える用意がなくてはならないのです。

融資は待てない

テナント契約の契約金は、敷金、礼金、仲介手数料、前家賃、家賃保障会社の保障料などを合わせると、数百万円に上ります。そのため、銀行融資を得てからテナント契約をしたいと思われるかもしれません。

しかし、融資の申し込みをするためには、そもそも開業場所が決まっていなければいけないのです。また融資は通常、申し込みから実行まで2〜3ヶ月ほどかかるので、その点でも契約時には間に合いません。やはり、テナント契約のための資金はご自身で用意しておくというのが正攻法です。

銀行も自己資金を見る

自己資金が必要になるもう一つの場面は、銀行融資の申し込み時です。融資の審査では、融資金額の2割程度の自己資金を保有しているかどうかという基準を元に、預貯金額を見られます。

銀行としては大金を貸す訳ですから、利息を付けてきちんと返済してもらわなければいけません。そのため、お金を大切に扱っていて無駄遣いをしていない証として、自己資金である預貯金額を見るのです。

注意すること

このように、自己資金が必要な場面というものがありますから、なるべく倹約して貯金をしておいてください。

中には、住宅ローンを前倒しで払って借金を減らしておいた方が開業には有利なのではないか?と質問された先生がいらっしゃいました。しかし、開業を目指すなら手元の資金は少しでも増やしておくべきです。住宅ローンの繰上げ返済などはご自身の立場を不利にするだけなので、絶対に止めてください。

また定年退職後に開業する場合は、一般的な開業とは異なり、全額を自己資金で賄うことが望まれます。この場合の開業は経済活動ではなく、ご自身の生き甲斐のためであることが多いです。そうであれば開業のために借金などはせず、全額を自己資金で賄わなければ本末転倒になってしまいます。

【 まとめ 】
・良い物件を速やかに押さえるためには、契約のために自己資金が必要になる
・銀行融資の審査の際にも預貯金額を見られるため、自己資金が必要になる
・自己資金を蓄えることが優先なので、住宅ローンの繰上げ返済はすべきでない

6-3. 開業前から始める「患者獲得」

今から始めて頂きたい準備の2つ目は、患者さんの獲得です。一口に患者さんと言っても、来院のきっかけは様々です。診療圏内に住む患者さん、紹介による患者さん、先生が今診ている患者さん、など。開業コンセプトを策定する段階で、どのように患者さんを獲得するのかという戦略も立てるようにしましょう。

患者さんに付いて来てもらう

開業相談にいらっしゃる先生方に、私はよくこんなお話をします。勤務先の病院の環境が許すのであれば、先生が今診ている患者さんを連れて開業するのが一番安全な方法であり、医院経営のリスクを最小限にすることができます。それを実現するためには、今診ている患者さんを開業するクリニックに来て頂くお客様として、明日から親切丁寧に診察することです、と。

病院で診ている患者さんに付いて来てもらうためには、開業準備の期間こそ、これまで以上に真剣に患者さんに向き合わなければいけない時であると言えます。同時に、本当に付いて来てくれる患者さんの名前を手帳に控えるようにしてください。それらの患者さんの数とご自身の診療単価を掛ければ、開業初月の売り上げを推計することができます。

クリニックは保険診療が基本ですが、保険診療の売り上げは「診療単価 × 患者数」です。診療単価はある程度決まってくる要素ですから、やはり売り上げを伸ばすための鍵は患者さんを増やすことだと言えるでしょう。

病院と友好的な関係を築く

一方、患者さんだけでなく、勤務先の病院に目を向けることも大切です。「立つ鳥、跡を濁さず」の言葉通り、病院を退職する最後のその日まで、病院の仕事を一生懸命、誠実に行うことで、病院に残る上司やスタッフさんからも友好的に見送ってもらえます。

たとえ病院での地位が高かったとしても、退職して開業してしまえば赤の他人のように見られてしまいがちです。退職後も良好な関係を維持していくためには、退職する直前までどれだけ実績を残したか?病院の一員としてどれだけ貢献したか?ということを見られるのです。

そのようにして病院と友好的な関係が築ければ、開業してからも患者さんを紹介してもらえたり、沢山の応援を得ることができるようになります。また開業後も病院の外来に診察のコマを残しておいてもらえれば、理想的な病診連携を実現することが可能になります。

【 まとめ 】
・開業コンセプトを策定する段階で、どのように患者さんを獲得するかを検討する
・勤務先で診ている患者さんに付いて来てもらうためには、これまで以上に真剣に患者さんに向き合うこと
・勤務先との病診連携を図るためには、最後まで勤務先に貢献し、信頼関係を築くこと

6-4. 地域に求められる「医療技術」

患者さんを連れて開業ができたり、病診連携で患者さんを紹介してもらえたりすれば、開業のハードルはグッと低くなるのですが、そういったことが難しい先生方もいらっしゃいます。落下傘開業の場合は、売り上げの基盤がないところからスタートすることになりますので、患者さんを一から獲得していかなければなりません。

落下傘開業の心得

落下傘開業では、これまで身に付けてきた専門性を売りにして集患するというよりも、来院する患者さんのニーズに合わせて様々な医療技術を提供することの方が求められるようになります。新天地での開業はどのような患者さんが来るかわかりませんし、またどのような患者さんも受け入れないと経営が成り立たないという現実もあります。

落下傘開業でも安定した経営を維持していくためには、「場所」「商品」「サービス」が重要です。(「場所」に関しては、3-3.「テナント開業」がオススメをお読みください。)

クリニックの「商品」とは、クオリティの高い医療技術

都市部に限らず、今はどこでも競合が多くいる中で開業しなければならない時代になっています。クリニックも固定客を作らなくては、安定した経営を続けることはできません。そのために必要なのは、第一にクオリティの高い医療技術という「商品」を提供していくことです。

かつては医師不足、開業医不足で需給バランスが崩れていたため、どこで開業しようと、どのような医療を提供しようと、医院開業で失敗することはまずありませんでした。しかし、今は歯科医院や都市部の内科医院が供給過多で、ただ開業しただけでは安定した経営が望めない状況にあると言えます。

そのため、開業準備期間にはスキルを磨くことを第一とし、様々なスキルを身に付けておくべきです。クオリティの高い医療技術を提供するためには、一定の時間を掛けた研修が必要となります。専門外の領域であろうと、ご自身が興味を持って真剣に取り組めば様々な分野に亘る医療技術を取得することができ、集患する上での大きな魅力となるでしょう。

また、開業場所の診療圏に住む患者さんに求められるスキルを磨き、地域医療に貢献することを目指すのも、集患を促進するのに有効です。例えば、内科の専門医であっても小児科の診療ができれば、ファミリークリニックとして地域のニーズに応えることができます。また女性医師であれば、美容に関する医療技術が患者さんに喜んでもらえるのではないでしょうか。

どのような業種でも共通して言えるのは、お客様の求めるものがそこにあれば繁盛するということです。

【 まとめ 】
・落下傘開業で重要なのは、場所、商品、サービスの3つ
・クリニックの商品として、クオリティの高い医療技術を提供するため、スキルを磨く

6-5. 得をしたと思える「サービス」

安定した医院経営を続けるためにはクオリティの高い医療技術を提供することが第一というお話をしましたが、現在の過当競争の中ではそれだけで十分とは言えません。患者さんがまたここに来たいと思えるような、琴線に触れるような「サービス」が求められます。

患者さんに得をしたと思ってもらえるような「サービス」

例えば、先生方がお食事に行く時のことを思い浮かべてください。お金を払ってご飯を食べるのですから、お食事は美味しくて当たり前です。ただ美味しいだけのお店ならたくさんあるのですが、その中でももう一度行きたいと思わせるお店があれば、その理由は何だったのでしょうか?

人は得をしたと思えば、それを繰り返します。反対に損をしたと思えば、ニ度と繰り返しません。クリニックに迎える患者さんにも、得をしたと思ってもらわなければならないのです。様々な業態のサービスを参考にして、患者さんが得をしたと思ってまた来てもらえるようなサービスとは何かということも考えていってください。

自由診療とサービス

現在は皮膚科を始めとして、自由診療を行うクリニックが増えています。保険診療では診療単価が統一されていて、また診療内容にも制限が加わることになります。一方、自由診療は提供する医療技術に見合った価格設定が可能であるばかりでなく、良質な顧客の信頼を得ることができれば高い収益が見込めます。

良質な顧客ほどサービスに対する評価はシビアですが、サービスに満足すれば、それに見合う支払いには何の抵抗もありません。要は、自分が得をしたと思うからです。例えば、銀座に行ってブランド店でわざわざ高い買い物をする人の心理は、それが自分にとっての満足であり、その買い物をすることによって自分が得をしたと思うからです。支払いがいくらであろうとも、自分が得をしたと思えば、また買いたくなるということです。

サービスの対価としての金額が高いか安いかというのは相対的なものです。自由診療を行うのであれば、価格以上の価値があったと思ってもらえるように、常にスキルとサービスを向上させていく必要があります。

【 まとめ 】
・リピーターを獲得するためにクリニックのサービスを充実させ、患者さんに得をしたと思ってもらう
・自由診療でも、サービスが患者さんの満足度を高める

7. 個別の論点 ー 開業までの「山場」

この記事をお読み頂いている先生方は、開業についてあれこれと思いを描いておられるかと思いますが、当然のことながら開業までの道のりは楽なものではありません。しかし、そうは言ってもどこに困難が待ち受けているかということは、経験がなければなかなか分からないものです。ここでは、クリニック開業に向けて避けては通れない山場についてお話したいと思います。

7-1. 「テナント契約」前の確認事項

色々な物件を見て、ようやく満足のいくテナントが見つかったとしても、テナント契約に関することをきちんと理解した上で進めていかないと、取り返しのつかないことになる場合があります。ここでは、テナント契約をする前に確認しておくべきことを中心にお話します。

普通借家契約と定期借家契約の違い

テナント物件の契約条件はネットの広告や募集図面などに記載されていますが、まず初めに確認しておかなければいけないのは、テナント契約が普通借家か定期借家かということです。ここは開院するクリニックが長期的に安定して経営できるかどうかの大きな分かれ目になりますので、よく理解しておいてください。

クリニック向けのテナント物件としては、「普通借家契約」が一般的です。これは事務所や賃貸マンションなどの入居契約にも使われるもので、2年や3年など一定の期間を定めた上で、お互いに問題がない限りは何度でも更新できる、というものです。

法律上、入居者の立場がかなり守られている契約なので、特段の問題を起こさなければ、大家さんから契約の解除を要求することはできません。そのため、長期的に入居できるので、安定してクリニックを経営していことができます。

では「定期借家契約」とはどのようなものかと言うと、一定の入居期間を定めて、その期間が満了したら出ていかなくてはならない、という契約です。こちらは公正証書による契約となり、公証人役場で公証人の立ち会いのもと契約を結ぶのですが、それにより契約内容に法的な強制力が付与されます。

なぜこのような契約があるのかと言うと、契約期間が満了したら速やかに明け渡してもらいたい場合があるからです。例えば転勤に伴う一定期間の賃貸や、建物の取り壊しが決まっている場合、また人気のある立地では入居者に問題があれば契約期間満了と共に退去させられるように、定期借家を採用していることもあります。

定期借家契約でも再度契約を取り交わして引き続き入居できる場合もありますし、例えば10年以上の契約期間を設定して入居している場合もあります。しかしその場合も、賃料などの条件は大家さんの希望を飲まないと契約が難しくなると思いますので、やはりクリニック開業には普通借家契約をお勧めします。

テナント契約の条件交渉

テナント物件の契約条件には、家賃や共益費、礼金、保証金などが記載されていますが、これらは全て大家さんが希望している条件ですので、このまま契約しなければいけないという訳ではありません。

入居希望者としては、少しでも有利な条件で契約をしたいと思うのは当然のことです。そこで条件交渉を行う訳ですが、まず認識して頂きたいのは、全ての交渉は契約する前に行わなければならないということです。

但し、条件交渉も手当たり次第に行っては契約自体が破談になってしまう可能性もあります。交渉も結局は相手によりけりです。せっかく巡り会った良い物件なのに、強気に交渉して大家さんの機嫌を損ね、契約自体が破談になってしまったら元も子もありません。

交渉事は要望が通りやすい項目を見極めて行うことが肝要です。そして言うことは言うにしても、引き際も心得ながら話を進め、双方が気持ち良く納得できる程度に、良い塩梅でまとめるようにしてください。

■ 更新料
普通借家契約の場合、契約期間は一般的に2〜3年で、契約の更新時には家賃1ヶ月分の更新料を支払うという条件が付きます。クリニックは20年くらいの長期に亘って入居することになるので、2〜3年毎に発生する更新料が積み重なると、支払い総額としては多額になります。

そこで交渉としては、契約期間を5年くらいに延長してもらうよう希望します。そうすれば更新料の支払いが5年毎で済みますので、長い目で見れば支払い総額を減らすことができます。

■ 礼金
礼金は2ヶ月分と記載されていることが多いですが、その内の1ヶ月分は大家さんの臨時収入に、残りの1ヶ月分は不動産会社に支払われる仲介料になります。

この礼金を下げてもらうという交渉は、比較的通りやすい項目と言えます。大家さんとしてはこれから家賃収入が入ってくるので、礼金の1ヶ月分を減額したとしてもフトコロは痛みませんから、受け入れられやすい条件だと思います。

■ 保証金・敷金
保証金や敷金も比較的減額の希望が通りやすい項目です。

大家さんが保証金を預る目的は、例えば入居者が経営不振のため姿をくらませてしまった場合に、後始末をしたり当面の家賃収入を補填したりするためです。飲食店や物販店などはたまに夜逃げがありますが、クリニックは優良な入居者と見てもらえますので、後始末のための保証金の額には交渉の余地が出てきます。

また大家さんからすると、保証金や敷金は預かっているだけのお金で、退去時には返さなくてはいけないものですから、金額の多寡はあまり関係がないとも言えます。

内装工事と看板工事の許可

テナントビルで内装工事を行うためには、事前に大家さんから工事の許可を得る必要があります。

その際に問題となるのは、例えば換気扇やエアコンの配管を通すために建物の外壁に穴を開けたりする場合です。特に新築やまだ新しいビルなどでは大家さんが建物に傷を付けるような工事を嫌がりますから、許可がもらえない可能性もあります。そうすると内装設計の変更が必要になったり、そもそもそのテナントではクリニック開業が難しいということになる恐れもあります。

そのため、テナント契約をする前に内装設計の大方の構想を想定しておいて、建物に穴を開ける必要があれば、契約前に了解を得ておかなければなりません。

看板工事についても同様で、テナント契約の前に取り付け場所や構造などの許可を取っておかないと、後々のトラブルの元になります。なぜなら、看板を取り付けるためには建物の外壁に傷を付けることになりますし、外観にも影響を与えるため、大家さんから許可をもらえない場合があるからです。

また、外壁がガラス張りのビルなど、もともと看板が出せない所もあります。このようなビルでは1階の集合看板にしかクリニック名を表示できなかったりするのですが、看板による宣伝ができないと患者さんへの認知も難しくなります。建物の外壁にどれくらいの看板が出せるのかということも、契約前によく確認しておいてください。

消防用設備の整備

こちらも内装工事に関連するお話ですが、消防用設備の整備にも注意が必要です。

消防法では、入居するテナントの業種によって、設置しなければならない消防用設備が定められているのですが、クリニックはその中でも比較的多くの設備の設置が求められる業種です。そして消防用設備というのは、テナントの内部に設置するものだけでなく、建物全体に設置しなければならないものもあります。

何が問題かと言うと、クリニックが入居することによって、テナントビル全体に新たな消防用設備を設置しなければならなくなった場合に、誰がその費用を負担するのか?ということです。

よく問題になるのは自動火災報知設備です。建物内のある場所で火災を感知したら建物全体にそれを知らせるという仕組みの設備ですので、テナントの内部はもちろんのこと、建物全体にも設置しなければなりません。

その費用は、建物の規模によっては数百万円かかる場合もあります。テナント内部の設置費用は当然先生ご自身で賄うとしても、建物全体に掛かる費用は大家さんに負担してもらいたいところです。

この場合も、交渉はやはりテナント契約の前に行わなくてはなりません。契約前であれば、クリニックが入居するための条件を整えてもらいたいと主張することができますが、契約後にそのような話をしても、大家さんとしては予定外の出費だということで難色を示すでしょう。

ちなみに、消防用設備の整備が新たに必要かどうかを知るためには、専門の設計業者に依頼し、消防署に確認を取ってもらうのが確実です。中には設置が求められているにも関わらず、故意に設置を怠っている建物もありますから、法令を遵守した上で開業するためにも、事前の確認は重要です。

【 まとめ 】
・クリニック開業は普通借家契約で行うのが一般的
・テナント契約の際に交渉しやすい条件というのはあるが、押し過ぎは禁物
・契約をする前に、内装工事や看板工事が希望通りに行えるかどうか確認しておく
・契約をする前に、新たに整備しなければならない消防用設備がないかどうか確認しておく

7-2. 失敗しないための「内装工事」

クリニックという実際の施設を作っていくための内装設計や内装工事も、開業への道のりの中で大きな山場となります。医療機器などは先生方が日々使っているものですから、選定をするのも比較的容易だと思いますが、内装工事となるとなかなかイメージが湧かない分野だと思います。

ここは開業準備の中でもやり直しが効かない最大の難所と言えるプロセスなのですが、厳しいことを申し上げると、多くの先生方はその重要性を理解しないままに大金を費やし、それにも関わらず効率の悪い設備投資を行っている可能性があります。つまり、気付かない内にクリニックの経営効率を低下させているのです。

クリニックの内装設計は専門家が少ない

クリニックの内装設計は専門家に任せるべきですが、医師にも様々な分野の専門医がいるように、内装設計に関しても様々な分野の専門家がいます。ここで気を付けなくてはならないのは、クリニックの内装設計の経験があるというだけでは、まだ専門家とは呼べないということです。

クリニックの設計というのは極めて高い専門性が求められる分野ですが、飲食や物販など一般的な産業に比べて需要が少ないため、専門家の数も多くはありません。先生方が行おうとしている診療行為をよく理解し、それをクリニックの機能に落とし込んで具現化できる設計者というのは極めて少数だと言えるでしょう。

設計業務というのはコンサルティング業務でもあります。新規開業をする当の医師以上に開業の目的と諸条件についての深い知見を持ち、全体のバランスの中で最適な提案ができる設計者と出会えるかどうかが、開業成功の大きな鍵となります。

内装工事の現場に足を運ぶ

開業する上で最も費用が掛かり、尚且つやり直しが効かないのが内装工事です。

内装工事が始まると、設計図という2次元の世界ではピンと来なかったような話も、3次元の空間を目の当たりにすることによって理解できるようになります。実際の使い勝手などが具体的にイメージできるようになる反面、図面を見ている時にはわからなかった違和感を感じることもあるでしょう。

工事が進んでやり直しが効かなくなる前に、そうした違和感を是正するためにも、現場に足を運ぶことには意義があります。また、工事を内装工事業者に任せたままで完成を迎えると、出来上がってから結局イメージと違うということで揉めるケースもあります。

内装工事が始まったら、週に一度は現場で進捗の確認と軌道修正のための打ち合わせを行うことをお勧めします。またそのような手順をキチンと踏む、クリニック専門の内装工事業者に依頼することも大切です。

入札で安い業者を選ぶように勧める開業コンサルタントも多いのですが、安い業者は手間を省くことによって安く請け負っていることが多いため、気付いた時には取り返しの付かないことになっていたということも起こり得ますので、よく注意して下さい。

【 まとめ 】
・クリニックの内装設計は専門家が少ないため、設計を依頼する際にはよく見極める必要がある
・内装工事の現場に足を運ぶことにより、やり直しが効かなくなる前に軌道修正を行うことが大切

7-3. 「申請」は事前協議で決まる

次は行政の手続きです。こちらは丁寧に事前協議を重ねていれば不確定な要素はなくなりますから、手間を惜しまなければ問題なくクリアできるでしょう。

保健所への開設届

クリニックの開設届は都道府県により所定の形式が異なります。東京都が一番詳細な形式で、クリニックの各室の面積まで記載が求められます。また添付書類として、テナントビルの登記簿謄本や確認申請の許可番号など、公的な資料の添付も必要とされます。

届け出に先立ち、保健所の窓口での事前協議は必須と言えます。必要書類一式を揃えて事前に確認を受けておけば、開設届当日の受付はスムーズに済ませることができます。

開設届を提出すると、今度は保健所の立ち入り検査が行われます。立ち入り検査では、届け出書類とクリニックの内装に相違がないかなどをチェックされます。そこで問題がなければ、保健所の受理印が押された開設届の副本が返却されます。

副本の返却のタイミングは各区によって異なり、立ち入り検査の当日に返却される場合と、検査後数日経ってから返却される場合があります。次にお話する厚生局への申請との兼ね合いがありますから、事前に確認しておきましょう。

厚生局への指定申請

厚生局へは、保険医療機関の指定申請を行います。都道府県により異なりますが、東京都の場合は申請の締め切り日が毎月10日です。添付書類として開設届の副本が必要になりますので、締め切り日までに間違いなく副本が返却されているよう、スケジュールの管理が大切です。

保険医療機関の指定申請の締め切りに間に合わないと、保険診療の開始日が1ヶ月先送りになってしまいます。それはつまり、開院も1ヶ月延びるということです。そうなると、1ヶ月分の経費が全く無駄な支出になってしまいますし、開院のプロモーションに使用する大量のチラシなども全て作り直さなければならなくなってしまいます。

ちなみに保健医の登録は開業する都道府県に移さなくてはいけません。例えば保険医登録が神奈川県にあり、開業地が東京都である場合、厚生局の神奈川事務所に届け出て保険医登録票の原本を返納し、東京事務所で新規に発行するという手続きが必要になります。

また開業するクリニックで公害や難病など、公費による診療を行う場合は、各種の施設基準の取得が必要です。東京都の場合は毎月1日までに厚生局に届け出ると、その月から適用が受けられます。

消防署への届け出

消防署への届け出も必要で、火災報知機など消防用設備に関わるハード面の届け出と、防火管理者の選任や消防計画といったソフト面の届け出があります。

ハード面に関しては、一般的に内装工事業者が届け出と立ち入り検査を受けることで完了します。こちらはキチンとした業者さんにお任せしておけば特に問題はありません。

一方でソフト面の届け出は、基本的には院長先生ご自身が行うことになります。まず防火管理者を立てなければいけないので、その資格を得るために事前に講習を受けます。防火管理者には院長先生か奥様がなるのが妥当です。そして開院の前までに、防火管理者選任届と消防計画を作成して届け出るという流れです。

【 まとめ 】
・保健所への事前協議を行って書類を揃えておけば、開設届はスムーズに完了する
・厚生局への指定申請は締め切り日が決まっているので、それに間に合うようにスケジュールを立てる
・消防署への届け出は、ハード面は内装工事業者に依頼し、ソフト面はご自身で行う

7-4. 「スタッフ採用」のタイミング

まず始めにお伝えしたいのは、スタッフの採用は一度でうまくいくようなものではなく、開業後も継続して取り組んでいかなければならない問題だということです。これから開業する先生方にとって求人活動は初めてのことだと思いますので、ここでは基本的な流れと注意すべきことをお話します。

募集開始のタイミング

開業までのスケジュールを逆算すると、採用されたスタッフは開院の半月くらい前から勤務を開始するのが一般的です。その半月の間に、電子カルテの講習や医療機器の取り扱い説明など、各種のトレーニングを受けることになります。

他の職場から転職して来る方の場合、その職場を退職するためには少なくとも1ヶ月前には退職届を出さなくてはいけませんので、それを考えると開院の2ヶ月前には採用するスタッフが決定しているのが理想です。

求人の募集開始から採用決定までの期間は1ヶ月くらいを見ておいた方が良いので、募集広告の掲載開始は開院の3ヶ月前が標準的なタイミングとなります。

年末の募集は要注意

しかし、募集する時期によっては応募者の数に大きな差が出ることがあります。特に年末に募集をかける場合には注意が必要です。年末に募集をかけるということは、開院時期としては年明けの2月頃から4月頃までのクリニックが当てはまります。

なぜ注意が必要かと言うと、年末年始にかけては就職活動をする人が少ない傾向にあるため、良いスタッフを獲得するチャンスが減ってしまうからです。うまくいく場合もありますが、他の時期に比べると難しい時期であると考えていた方が良いと思います。

転職を希望している人でも、年末ともなるとボーナスを貰うまでは転職活動を控えようという気持ちが湧くのかもしれませんし、忘年会やクリスマスなどイベントも多いので、落ち付いて転職活動をする気にならないのかもしれません。

新規開業するクリニックとしては、このタイミングでスタッフの採用に失敗すると、開院までのスケジュールに影響する恐れがあります。

そのため、募集が年末になる場合は1ヶ月前倒しして開始するというのも方法の一つです。通常の募集時期の1ヶ月前に募集を開始する訳ですが、そうすると2ヶ月間に亘り求人活動を行うことができますので、良いスタッフを獲得するチャンスが広がります。

結局、人との出会いというのはご縁でもありますから、計画通りに行くものではないと覚悟して、継続的に求人活動に取り組むつもりでいてください。

【 まとめ 】
・スタッフの採用は一度でうまくいくものではないと心得ておくべき
・スタッフの募集は開院の3ヶ月前から始める
・年末は応募者が少ない傾向にあるので、もう1ヶ月前から募集を開始すると良い

8. 「患者さんを集める」ためにできること

様々な準備を経て開業した暁に、その開業を成功と呼べるかどうかは、ひとえに患者さんに来て頂けるかどうかに賭かっていると言えるでしょう。新規開業をしたものの、思ったほど患者さんが集まらないで苦労しているというお話をよく聞くことがあります。

患者さんを集めるためには様々な広告宣伝をするというのも一つの方法ですが、何より一度来院された患者さんにまた来て頂くというのが最も効果的な集患方法です。

では、どのようにすればそれが実現できるのでしょうか?

開業場所は集患を左右する

クリニックにとって立地というのは集患を左右する大きな要素ですので、まずは開業場所を注力して探すということが重要です。

良い場所というのは、分かりやすい場所ということです。分かりやすい場所というのは、簡単な道案内ですぐに理解してもらえる所だと考えてください。それはつまり、通いやすい場所だと言うこともできます。

新規の患者さんも再来の患者さんにとっても来やすい場所で開業することにより、多くの患者さんの獲得が期待できます。

常に医療技術を研鑽する

開業をする時というのは、先生がご自身の医療技術に一番自信を持っている時期なのではないでしょうか?仕事の環境としても、病院で多くの症例を診て、多くの先生方とカンファレンスをし、多くの刺激を受けることで医療技術が研鑽されていることでしょう。

しかし、開業すると主に一人で診療に当たることになるため、様々な情報に触れる機会が少なくなっていきます。同じことの繰り返しの毎日を過ごしていると、医療技術が徐々に停滞していく恐れがありますし、年齢を重ねることで、新しい知識の吸収が滞ってしまうということも考えられます。

またご自身の問題だけでなく、どんなに優れた技術でも、時が経てば世の中の進化に伴い時代遅れになってしまうものです。

患者さんは常に良い医療サービスを求めて来院しますので、そうした期待に応えられるように常に研鑽をしてレベルの高い医療技術を提供することが、リピーターの確保には欠かせない条件となります。

来院のきっかけを作る

広告宣伝は来院のきっかけを作るための有効な手段となります。まず、広く情報発信ができて集患の効果が見込めるのがホームページの作成です。ホームページの内容を充実させることは患者さんへのメッセージにもなりますので、手間を惜しまずに取り組んで頂きたいと思います。

しかし、ウェブ上での宣伝競争が激しい時代ですから、ただホームページを作っただけでは検索エンジンで表示されるのが難しくなってきています。そこで、SEOやMEO、リスティングといった追加の対策や、FacebookやInstagramといったソーシャルメディアを活用した宣伝を行うなど、今や様々な手法で患者さんの獲得合戦が繰り広げられています。

広告宣伝というのはどこまで行えば十分という基準がある訳ではなく、ともすれば際限なく費用がかかってしまう類のものです。しかしそれはあくまでも来院のきっかけを作るものであり、本当に患者さんを獲得できるかどうかは提供する医療サービスに掛かっています。

そのため、開業したら医療技術の研鑽を絶えず続け、来院した患者さんに満足して帰ってもらうことを第一に考えて診療を行ってください。それが、患者さんを集めるためにできることの基本になります。

【 まとめ 】
・集患方法としては、一度来院した患者さんに再来してもらうのが最良
・患者さんの期待に応えられるように、レベルの高い医療を提供し続けること
・来院のきっかけを作るためには、ホームページやウェブ広告は有効

9. 経営を継続するための「心構え」とは?

先生方にとって、クリニックを開業するというのは初めての体験の連続ですが、中でも経営というのは経験のないことだと思います。私どもにご相談にいらっしゃる先生方からも、経営というものをしたことがないのでどうしたらいいのか?という不安の声を聞くことがあります。

これからクリニック経営を始められる先生方に、まずは経営者として何を心掛けたら良いのかについて、僭越ながらお伝えしたいと思います。

時間はコストである

クリニックの経営者としての日々は、まずはそこに生じる様々な義務を果たすことから始まります。

テナント開業であれば、毎月の家賃や人件費の支払い、リース料や借入金の返済、医薬品や診療材料などの仕入れに伴う支払いが発生しますし、同時に家族の生活も保障しなくてはいけません。つまり経営というのは、まずは支払いから始まるのです。

たとえ売り上げがなかったとしても、これらの支払いがなくなることはありません。時間の経過と共にお金が出て行くという現実と直面しなくてはなりません。時間はコストであるということが、本当に身に染みて理解できる瞬間です。

クリニックというのは世の中の流行り廃りのある仕事とは異なり、常に人から求められる仕事ですし、また保険医療制度という公的な保証の上に成り立っているものでもありますから、一般企業に比べれば経営のリスクは小さいと言えます。

開業して順調に患者さんを増やしていくことができれば、いずれは損益分岐点を越えて経営が黒字化する時がやってきます。問題はいかに早くその時を迎えることができるかですから、開業したらより多くの患者さんからの支持を得られるように、日々の診療に励んで下さい。

正直な経営者であること

開業して長期に亘りクリニックの経営を続けていくためには、患者さんからの支持を得ることがまずは大切ですが、組織をまとめていく力というのも同時に必要です。

そのためには労働基準法に始まる各種雇用関係の法律や、税法を始めとする経営管理に関する基本的な知識が求められます。そうした規制やルールを基礎とした上で、クリニックのスタッフが気持ち良く働き、最高のパフォーマンスを発揮できる環境を作ることが、経営者としての重要な役割となります。

スタッフが働きやすい環境を作るためには、経営者自身が正直であることがとても大切です。経営者である院長先生の言動に噓やごまかしがあると、スタッフはそれを敏感に感じ取ってしまいます。

例えば、経営が苦しいと偽ってスタッフの昇給やボーナスを控え、一方でご自身が派手な暮らしをしていれば、誰でも院長に利用されているとしか思わなくなります。

利益が出たらスタッフに公正に還元しようと考えるのが、経営者としての真っ当な心構えです。そうすることでスタッフの仕事のパフォーマンスも上がり、結果的に経営に良い循環が生まれることになります。

クリニック経営を継続するためには、このように人をごまかすことなく、正々堂々と生きるということが何よりも大切です。

【 まとめ 】
・経営の初期は支払いが先行するため、いかに早く損益分岐点を越えられるかが課題
・スタッフに最高のパフォーマンスを発揮してもらうためには、ご自身が正直であることが大切

10. わたくし、金村がお伝えしたいこと

さて、そろそろ終盤です。これまで、開業を目指す先生方に成功して頂きたいという思いで様々に書き綴って参りましたが、改めて開業準備の大切さというものを強調しておきたいと思います。

開業したら10年20年とクリニックを経営していく訳ですが、その基盤作りを開業準備期間に行うと考えれば、その間にやらなければいけないことが山積しているとご理解頂けるでしょう。

クリニックの経営基盤は開業前に形成される

クリニックの開業準備期間というのは、あらゆる面で開業後のクリニック経営の基盤を作る時期になります。そのため、この期間に誤った方向に舵取りをしてしまうと、その後の経営に致命的な影響を与えてしまいかねません。開業したことを後悔する結果とならないように、基盤作りは周到に行って頂きたいと思います。

クリニックを新規開業するためには、主に以下のような知識が必要になります。
・「事業計画」に関する知識
・「不動産契約」に関する知識
・「融資契約」に関する知識
・「内装設計」に関する知識
・「医療機器や電子カルテ」に関する知識
・「求人や雇用」に関する知識
・「集患や広告」に関する知識
・「各種の届け出や申請」に関する知識
・「各分野の専門家」に関する知識

このような知識は付け焼き刃でどうにかなるものではありませんし、ましてや開業というものを初めて経験する先生方にとっては、適切な判断が難しい事柄だと思います。

そのため、無理にお一人で進めようとするのではなく、早い段階から専門家と相談しておくことをお勧めします。そうすることで、脇道に逸れることなく、経営効率の高い開業準備を行うことができます。

中でも開業コンサルタントというのは、開業をトータルにコーディネートして成功に導くための重要な存在です。開業を成功させるためには、全ての知識を網羅した上で、開業する先生方の個別の状況に合わせて最適な方向性を示すことができなければなりません。

弊社、オクスアイ医療事業開発株式会社は、30年以上に亘る開業支援の実績に基づき、成功する開業のノウハウを駆使してお手伝いさせて頂きますので、ご用命の際はきっとご満足頂けるものと確信しております。

日々の失敗は学びと経験になる

開業医になるということは、経営者になるということです。経営者として最終的な責任を負う立場になると、様々な判断の結果が直接ご自身に帰ってくることになります。

勤務医であれば多少の失敗があったとしても、給料を減らされたり損害賠償の支払いをさせられたりすることはないと思いますが、経営者として失敗すると、売り上げや収入の減額に直結します。

一人前の経営者になるためには、日々の経験の積み重ねがとても大切になります。臨床の現場と同じように、開業すると経営者としても様々な判断を下していかなくてはならなくなりますが、そこには初めから正解がある訳ではありません。

どのような判断も相手や場面に応じて変化させていく必要がある訳ですが、そういったことができるようになるためには、小さな失敗を重ねていくことも大切な経験となります。

開業して、物事がうまくいかない時や結果が出ない時の原因は明らかです。それは、経営者としてのやり方に何か問題があるからです。これまでのやり方を見直して自分自身が変わっていかなければ、良い結果を出すことは永久にできません。

日常で経験する小さな失敗は学びになるだけでなく、ご自身を変えていくための貴重な動機ともなります。どんな経営者でも、初めからうまくできる人はいません。小さな失敗を繰り返して、学び、変わっていくことで、やがては安定した経営を続けることができるようになるのです。

【 まとめ 】
・クリニックの経営基盤を形成するためには様々な専門知識が必要であり、早い段階から専門家に相談しておいた方が良い
・経営者として一人前になるためには、小さな失敗から学び、変化を重ねながら問題を解決していくこと

11. オクスアイが抱く思い・実現したい世界

世の中の多くの仕事というのは、流行り廃りのある時代の流れに揉まれて変わっていきます。10年も経つと様々な仕事が変化し、中には無くなってしまう仕事も少なくありません。

しかし医師の仕事というのは、病気を治すという本質的な点ではいつの時代も変わることのない、素晴らしい仕事であると思います。そのような人に求められる仕事が広く世間に行き渡り、十分に機能するようになれば、より暮らしやすい社会が実現できるでしょう。

私どもは、クリニック開業のお手伝いを通して、社会資源の拡充に寄与しているということを大変嬉しく思っております。

また、一人ひとりの先生方に目を転じれば、そこには様々な生き様があり、様々な開業の動機があります。医師としてのやり甲斐を感じて更なる目標のために開業しようと考えている方もいるでしょうし、女性医師であれば家庭を大事にしながらも医師としての人生を全うするために開業を考えている方もいると思います。

クリニック開業というのは、ご自身の裁量で運営することができ、人に指図されることなく自由に生きていくための選択肢の一つなのかもしれません。その代わり、全ての責任をご自身で引き受けなくてはならない、失敗の許されない経済活動でもあります。

開業を目指す先生方には、それまでに培ってきたキャリアを十分に発揮して多くの患者さんの助けとなり、同時にご自身の生活も豊かになって充実した人生を送って頂きたいと思っております。その為の一助となれるよう、私どもは全力で先生方の開業をお手伝いして参ります。

12. オクスアイがお手伝いした先生方の今

私どもはこの30年余りで、160件ほどの新規開業をお手伝いさせて頂きました。幸いなことに、その全ての先生方が成功し、幸せな人生を送っています。

開業を決意した先生方には様々な背景があり、またそれぞれの開業への道のりがあります。ここではその一端を垣間見ることで、これから開業しようと思っている先生方に参考にして頂けたらと思います。

■ A先生の場合
5年間の準備期間を経て、勤務先の病院の協力を得て、多くの患者さんを引き連れて開業しました。初月から黒字を達成し、順調なスタートを切りました。

■ B先生の場合
開業場所がご自宅の近くで、小学生のお子さまも学校帰りに寄れる所が見つかりました。今は医師として、また母として、有意義な人生を送っています。

■ C先生の場合
開業資金の融資を受けるのが難しい先生でしたが、いろいろと手を尽くされて工面しました。在宅医療専門のクリニックを開業して、今はとても繁盛しています。

■ D先生の場合
オープニングスタッフの一人がトラブルメーカーだったのですが、その問題も何とか解決し、今は良いスタッフに囲まれて充実した毎日を送っています。

■ E先生の場合
整形外科としては通常より狭い30坪で開業しましたが、それでもリハビリの施設基準を取得できました。理学療法士を始め良いスタッフに恵まれて、毎日を楽しく過ごしています。

■ F先生の場合
奥様の反対で一旦は開業を断念したものの、事業計画を見直したことで今度は奥様の積極的な応援と協力を得ることができ、今では多くの患者さんが来院するクリニックになりました。

■ G先生の場合
勤務先の病院の院長が交代したことにより、系列の大学が変わったために開業を決意しました。お年寄りの多い地域での開業で、地の利を生かした集客に成功しています。

■ H先生の場合
3代続いたご実家の医院を引き継ぐため、大学病院を退職しました。ご実家を全面リフォームして、親子で多方面の患者さんを迎えています。

■ I先生の場合
初めてご相談を受けた時はお子さまが産まれたばかりだったので、お子さまが3才を過ぎるまでは開業はやめるようにお話しました。数年後に改めてご連絡を頂き、子育てをしながらの無理のない開業を実現しました。

■ J先生の場合
当初は医薬品卸の開業支援を受けていましたが、希望していたテナントの確保に失敗し、弊社に相談にいらっしゃいました。その後、駅前の好立地のテナントが見つかり、無事に開業を果たすことができました。

■ K先生の場合
勤務先の健診センターでは内視鏡の麻酔が制限されていたため、思うような健診ができませんでした。開業してからは、痛みのない内視鏡検査と誠実な診療が信頼を集め、多くの患者さんが来院しています。

■ L先生の場合
子育てと両立するため午前診療のみで開業したいけれど、経営が成り立つでしょうか?とご相談を受けました。小さいけれど効率的なクリニックを作ることで、半日の診療でも良好な経営を実現しました。

■ M先生の場合
大学病院の定年退職を控えて開業を決意しました。生き甲斐としての開業なので、借金はせずに自己資金だけで開業し、今は充実した毎日を過ごしています。

■ N先生の場合
病院という組織の中で管理職へと立場が変わっていくことに喜びを見出せなくなり、開業を思い立ちました。病院とは良好な関係を保ちながら、多くの患者さんを引き受けて順調な経営を続けています。

いかがでしたか?この他にも多くの先生方と、開業への道のりを共に歩んで参りました。弊社のホームページでは開業支援の実績や開業ドクターへのインタビューを数多く掲載しておりますので、関心をお持ち頂けましたら是非お立ち寄りください。

【 開業実績 】 https://www.okusuai.co.jp/experience_taxonomy/medical/
【 開業ドクター インタビュー 】 https://www.okusuai.co.jp/interview/

13. 最後に

クリニック開業というのは、判断と行動の全てに責任を持ち、努力した結果の全てがご自身に帰って来るという、本当の人生の始まりです。

本当の人生を始めて、それを長く続けて行くためには、本当の仕事をしなくてはいけません。本当の仕事というのは、世の中の役に立ち、お客様に喜んでもらえる仕事のことです。

当たり前のことを言っていると思われるかもしれませんが、世の中にはその当たり前のことができていない人や組織がいかに多いか、というのが現実です。

かつて開業医が少なかった時代には、どこで開業しようと、院長先生の愛想が悪かろうと、毎日多くの患者さんが来院し、保険診療の売り上げだけで十分に経営が成り立っていました。

ところが現在は、国が開業規制を行おうとする程、開業医の供給過多の時代となっています。医師としての独占的な地位は、すでに開業医には存在しないと思ってください。

患者さんに喜んでもらえる質の高い医療技術を、優しく丁寧に提供することでしか、これからのクリニック経営は成り立ちません。世の中の企業は全てこの原則の下で経営して来ましたが、クリニックは今ようやくその厳しい世界に足を踏み入れたところです。

思い切ってご自身の力と運を試してください。そして、世の中に本当に必要とされる医師として人生を全うし、同時にご家族の幸せも実現して頂きたいと思います。

私どもはそのような人生の選択をした先生方を、全力を上げてサポートさせて頂きます。

オクスアイ医療事業開発株式会社
代表取締役  金村 伯重

執筆者

コンサルタント
一級建築士
金村かねむら 伯重のりしげ

金村伯重

経歴

昭和54年
病院システム開発研究所 入社
東京医科大学病院、焼津市立病院、富士市立中央病院、沼津市立病院、富士宮市立病院などの建替計画に参画
昭和59年
医療機構開発株式会社 入社
町立浜岡病院(現御前崎市立病院)新設に参画
昭和63年
オクスアイ医療事業開発株式会社設立

以来30年以上に亘り、数多くのクリニック開業をサポートしている。

総合病院であらゆる診療科目の医療現場に携わり、多岐に亘る分野の技術に精通する。また一級建築士である事から、施設造りまで自社で一貫して行う。クリニック開業を成功に導くソフトとハードの技術を確立し、他に例を見ないコンサルティングを実践。これまでサポートしたクリニックを全て成功に導いている。

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