子育てしたい女性医師が産婦人科を開業する場合の理想の開業計画とは
女性医師の方々のクリニック開業相談を受ける中で、「ワークライフバランスを適正に保った生活をしたい」という希望を大変多く聞きます。
ワークライフバランスが難しい女性医師
確かに、大学病院に勤務する医師の場合には、日常の診療で多忙であることもあるのですが、いつまでも帰れないという職場が多いという話を聞きます。医局の上司がいつまでも帰らないで職場に残っていることで、自分の仕事が終わった後もなんとなく帰りづらい雰囲気を醸し出していることが原因です。
こうしたことは一般企業でも同じように起こっています。一般企業のスタッフは、遅くまで職場に居残っていることで、仕事を頑張っている雰囲気を出していたり、残業代を稼いだりすることもありますが、上司が職場にいつまでも居続けていると、そこに所属しているスタッフは無駄に帰れなくなる時間を過ごすことが多くなります。
一方で、一般の病院に勤務する医師の場合には、常に勤務する医師が不足している状況にありますので、術後の管理や当直・救急患者の受け入れなどで長時間の勤務を続けざるを得ない状況になりやすくなって居ます。
こうした状況も若いうちは修行の一環として受け入れられるものの、結婚して出産と子育てが始まると、女性医師は生活と仕事の両立が困難になってきます。
クリニックで非常勤勤務をすれば子育てができるのか?
こうした状況を解決する方法として、救急患者の受け入れや当直業務のない街中のクリニックでの非常勤勤務という選択をするドクターも多く居ます。
ところがそうしたクリニックに非常勤勤務する場合でも、契約したクリニックで決められた診療日には必ず出勤しなくてはなりません。子供さんの学校行事や受験のための説明会などに行きたくても、クリニックを休むわけにも行きません。
そればかりでなく、他の医師が急にお休みした場合には予定外の勤務を依頼されて断りきれない場合もあります。
「どうしても子育てを優先したい」ということでクリニックを辞めようとしても、代理の医師がいなくて辞められなかったり、辞めて子育てが終わった後に復職しようとしても雇用条件が悪くなっていたりと、どこに行ってもワークライフバランスを考える女性医師にとっては、環境が厳しいと言えます。
そこで、自分自身でクリニックを開業するという選択肢を考えるのですが、開業しても経営者としてやっていくことに不安を感じているために、開業に踏み切れないで迷っている女性医師がたくさん居ます。
クリニック経営は難しい?
ある高名な医師が、勤めていた病院から多くの患者さんを引き連れて、事務長役のスタッフにサポートしてもらいながら開業したものの、なかなか経営状況が好転しないで、借入金の返済も難しい状況が続いているということを聞いたことがあります。その先生と同じ専門分野を専攻する女性医師が、クリニック開業のご相談に来られ、高名な医師でありながらも、厳しい経営状況が続いている状態を見て、ご自身の開業も難しいのではないかと悩んでいたことがあります。
実はその逆で、専門の分野で権威と言われる医師であるほど、独立してクリニックを開業したとしても厳しいのです。
その理由は主に3点あります。
- 1.権威があっても集患が思ったほどできないこと
- 2.たくさんの設備投資をしてしまい借金の額が大きくなりがちなこと
- 3.初めから多くのスタッフを雇用してしまい赤字経営になりやすいこと
これらの理由から、高名であるからと言ってクリニック経営がうまくいくとは限りません。
では、どのように開業したらワークライフバランスが実現し、利益が出て、収入を増やせるのでしょうか?
それは、この3つの逆をしたら良いことになります。以下、子育てをしたい女性医師の病院での現状と、産婦人科クリニックを開業するときの理想の開業計画について、ご説明いたします。
女性医師による産婦人科の理想の開業計画
女性医師に人気の診療科目
女性医師が開業を希望する人気の診療科目の1つに産婦人科があります。医学部に入学する女子学生の割合が多くなるにつれて、産婦人科の医局でも多くの女性医師が活躍するようになってきました。
そのほかに女性医師が専攻する割合が多い科目として、皮膚科・眼科・耳鼻咽喉科などがあります。こうした診療科目の特徴としては、比較的重篤な患者さんの割合が少ないということでしょうか。
医療現場の現実
もちろんこうした診療科の患者さんの中には皮膚癌や喉頭癌などのように、命に関わる重篤な疾患の手術や治療が必要な場合もありますが、日常的には比較的落ち着いた疾患の患者さんが多いです。他の外科系の診療科に比べて、当直やオンコールなどの頻度が少な目で、体力に自信のない女性医師が進みやすいという特徴があるようです。
以前、産婦人科を専攻する女性医師の開業サポートをしたときに、その先生が産婦人科に進んだ理由として、「新しい命の誕生に立ち会える喜びを感じられる唯一の診療科目なので産婦人科医になることを選びました。」というお話を聞いたことがあります。確かに、他の多くの診療科では高齢者が弱って行って亡くなる姿を見るのが病院に勤務する医師の日常ですが、そうした中では唯一新しい命の誕生を喜び合える診療科目でしょう。
ただし、そうした日常の中でも深夜や早朝にお産に立ち会ったり、切迫早産や緊急手術などで当直やオンコールの連続する日常が続くことが多くなってしまいます。また、子宮癌をはじめとする婦人科領域の多くの疾患をカバーするのも産婦人科医としての役割となりますので、長時間にわたる緊急手術や術後管理で家に帰ることもままならない日常が続くという現実があります。
医師免許を取得して一人前の医師になる修行中の若い時期であれば、こうした日常も仕方ない部分もあるかと思いますが、女性医師がやがて結婚して家庭を持つようになると、当然ながらこうした拘束時間の長い病院勤務を続けることができなくなってきます。
子育て中の女医さんの場合
子育て中の女医さんの場合はなおさら、このような生活を続けることが困難な状況となります。
子供さんが小さなうちはシッターさんに見てもらったり、保育園に預かってもらったりすることで、なんとか病院の勤務を継続する女医さんが多く居ますが、子供さんが中学受験を迎える様な時期になると塾や家庭教師、学校見学などで子供さんを支えることが必要になってきます。
中学受験は親の受験と言われる様に、まだ幼い小学生の時期から中学受験という厳しい受験競争の中で志望する学校に入学するためには、母親が多くの時間を費やさなくてはならなくなります。
その様な状況で多忙な病院勤務を続けることは困難ですので、「開業して自分の時間を自由に作れる生活をしたい」という希望を持つ女性医師がたくさん居ます。
開業が不安な医師の特徴
そこで、女医さんの多くが開業を考えることになるのですが、「数千万円の借金をして、経営がうまくいかなかった場合にどうしたら良いのだろう?」という不安が大きくなって、開業に踏み切れないという現実があります。
そういった不安は、開業に対する考え方が古いからだと思います。つまり、「開業医が少なかった、競合先のない過去の開業形態の発想」なのです。従来型の開業パターンの情報しか持たないために、「競合先の多い現在の医療環境の中での開業では、成功する見込みが立たないのではないか」という勘違いの不安が先行して、開業に踏み切れない女医さんが大勢います。
現在は昔と違って、女性医師に最適な理想の開業方法があります。
それは、小さいスペースを有効に使った時短開業を計画することです。
そして、産婦人科であればなおさらそれが可能です。
事業計画作成でやってはいけないこととは?
こうした時短開業のクリニックを計画するときに絶対してはいけないことは、必要なものを積み上げて開業計画を作っていくことです。
病院に勤務しているときに行う診療は、どの様な患者さんが来院しても治療が可能な様に様々な施設と設備や人員が揃って居ます。専門性の高い高名な医師のところでも述べましたが、その様な中で医師としての仕事をしているとご自身の開業を計画する場合にも、多くのものを求めてしまいがちになり、開業に必要な施設の規模と人員が膨れ上がることになってしまい、クリニックの経営にかかる固定費の金額がどんどん高くなってしまいます。
ところが、産婦人科ではそうした高額な費用を賄うことのできるだけの売り上げを上げられるという保証は何もありませんので、競合先の多い中で開業をした場合には思うように患者さんが集まらないで、やがて運転資金を使い果たして廃業せざるを得なくなってしまう事もあります。
多くの患者が来たときのデメリット
一方で、仮に多くの患者さんが来院して経営に必要な売り上げを上げられたとしても、忙しすぎて長時間の診療をせざるを得なくなってしまい、「何のために開業をしたのかわからなくなってしまった」という結果になります。
仮に開業して3,000万円以上の所得を得たとしても、累進課税の税制の中では最高税率の適用を受けて、それだけ多くの税金を支払うことになり、忙しい割には手元に残る現金が少ないという、あまり楽しくない結果になってしまうでしょう。
今日のように開業医が多い時代には、都市部での開業を計画した場合には、どこにでも競合相手がいます。そうした競合先のある中で多くの患者さんを集めようとすれば無理が生じますし、思うように患者さんが集まらないという可能性も高くなります。
少ない患者さんでもで利益が得られる事業計画を立てること
そうした状況の中で開業を成功させるコツは、少ない患者さんの来院でも成り立っていく開業計画を作ることです。
通常の開業で求められる患者さんの半分の患者数を想定し、それで黒字化すれば、クリニックの診療時間も半分に設定することができます。普通のクリニックの開業計画では9時から18過ぎまでの診療時間を計画するとすれば、その半分の患者数の診療は10時から16時位までの時間帯の診療時間を設定すれば十分です。
そうした時間帯の診療であれば、クリニックに勤務してもらうスタッフさんを全員パート勤務で採用することが可能となります。
そうした時間帯の開業ですと、子育てのための開業を希望するドクターと同じ考えで、クリニックに勤務したい事務スタッフさんや看護師さんも子育てをしながら無理のない時間帯での勤務が可能となり、人件費が安く済みます。また、テナントビルを借りてクリニックを始める場合にも、ミニマムなスペースで計画できるので、固定費として毎月発生する賃料を最小限に抑えられます。
このようにクリニックの経営に必要な経費を抑えることで、通常の半分の売り上げでも早期に黒字となって経営利益を上げることができます。
年間売上高を5,000万円以下に抑えて節税が可能
さらに、税制の面から見ると保険診療の年間売上高を5,000万円までに抑えることで、租税特別措置法(特措法)の概算経費を適用することができます。
これは、いわゆる『医師優遇税制』と呼ばれるもので、保険診療の年間売上高が5,000万円までであれば、売上高の7割をみなし経費(概算経費)として認めてもらえ、税金を安く抑えられるという、開業医への特典として決められた税制です。
規模を小さく抑え特措法を活用して開業する方法のことを「ミニマム開業」といいます。ミニマム開業の詳細は、「ミニマム開業とは?メリット・デメリット」をご覧ください。
医師優遇税制を利用したときの年収
つまり、「売上高の3割である約1,500万円を院長の所得として申告して税金を支払えばよろしい」ということになります。
クリニックの経営で実際にかかる経費の大部分は家賃と人件費です。ミニマムなスペースでパートスタッフのみの採用で経営をすれば、クリニックの経営に毎月かかる経費を150万円程度に節約して、年間にかかる経費を2,000万円程度に抑える事も可能です。そこで、5,000万円の売り上げを上げた場合には、普通は3,000万円の所得となりますので相当な額の税金を支払わなくてはなりません。
ところが、開業医の場合にはその半分の1,500万円だけ所得として申告すれば良いので、残った1,500万円は全く無税で手元に残ることになります。
一般の会社からすると、ちょっとずるいような税制のように見えますが、もちろん法律で決められている優遇措置ですので、この制度を大いに活用するべきです。普通の半分くらいの仕事量と売り上げで、1億円くらいの売上高を上げているクリニックの院長先生と同じくらいの手取り収入を得ることができます。
年間売上高が5,000万円を超える場合
保険診療の年間売上高が5,000万円を超える場合には、「青色申告」と言って実際にかかった経費が所得から差し引かれて、残ったお金を所得として申告して税金を支払うことになります。
そのために色々と領収証を集めて、しっかりと帳簿を作って税理士さんに毎年決算と確定申告をしてもらう必要があります。
また、10年に一度くらいは税務調査が入りますので、税理士さんに立ち会ってもらう必要があります。
ところが、概算経費を適用できれば売上額だけを申告すれば所得金額が決まってしまうので、領収証を集める必要もありませんし帳簿を作る必要もありません。
税理士さんに依頼する必要なし
当然税理士さんに依頼する仕事も不要となりますので、年間に100万円近い税理士さんへの委託費用を支払う必要も無くなってくるのです。
言ってみれば税理士泣かせの法律でもありますので、こうした仕組みをうまく利用して手取りを増やす方法を税理士さんが教えてくれる事もありません。
このように、開業医に優遇されている税制をうまく利用して、少ない仕事量で成り立つ時短開業で、手取り収入を増やして子育てのできる自由な時間も獲得できる理想の開業を実現することができます。
以上、子育てしたい女性医師が産婦人科を開業する場合の理想の開業計画についてご紹介いたしました。
まとめますと、女性医師でワークライフバランスを考えて開業をしたい場合、開業時間を短くミニマムな開業を目指すことで、患者数が少なくても十分に手取りが得られます。もちろん、入念な事業計画を立てることが大切です。
当社では、女性医師の開業コンサルティング支援実績が多数ございます。また、過去の実績では、開業支援したすべての先生方が黒字経営をされています。
産婦人科クリニックは、女医さんにとってはミニマム開業で医師としての仕事と子育てと両立させるのに最適な医療分野です。当社の産婦人科クリニックの開業支援の詳細は、「産婦人科医院の開業を支援するクリニック開業コンサルティング」をご覧ください。
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